ⅴ 遺産分割手続の進め方

ここでは遺産分割の手続について説明をします。

遺産分割とは?

親族のどなたかが亡くなって相続が開始し,相続人が複数いる場合,土地・建物などの不動産,車などの動産があった場合,その複数の相続人は各財産を共有していることになります(遺産共有)。
この共有の状態が続いていると,各相続人は共有持分の譲渡しかできないことになりますが,財産によっては持分の譲渡が難しいことがあります。
共有状態にある財産を処分するためには,もちろん,他の共有者の同意が必要になってしまいます。こうした共有状態の不都合,不便さを解消するために,誰にどの遺産を相続させるかを決めるのが遺産分割です。

預金の相続,遺産分割

預貯金は,かつては遺産分割の対象とはならないとされていました。
というのは,「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではない」とする最高裁の判決があり(H16.4.20判決など),ここにいう可分債権には預金債権も含まるためです。
こうした判例があっても,金融機関の実務としては,遺産分割協議書や相続人全員が実印を押した相続関係届出書,印鑑登録証明書等の提出を要求し,共同相続人の一人からの請求には応じていなかったのですが,それでも,訴訟を提起しさえすれば,最終的には単独で相続している法定相続分相当の預金について払い戻しを受けることはできていました。

ところが,平成28年12月19日の最高裁判決は,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と従来の判例を変更して預貯金も遺産分割の対象となるとしました。

この判例変更の結果,金融機関の実務としては,各相続人からの法定相続分に基づく払戻しについては,今後は今まで以上に柔軟に対応することは困難となり,遺産分割が終了するまで預貯金が凍結されたままになるケースが多くなるものと思われます。

相続税の納付には,遺産のうち預貯金を解約する必要があるというケースも実際には多いと考えられますが,預貯金の解約払戻しについては,他の共同相続人全員の協力が不可欠な状況になっていますので,それが難しそうな場合には,早い時期から遺産の仮分割の仮処分申し立てなど,別の方法も検討しておく必要があります。
このようなケースについては,弁護士のアドバイスを早めに受けることをお勧めします。

遺産分割の進め方

産分割の進め方は,被相続人が遺産分割の方法を指定した遺言書(個々の財産を誰に相続させるかを具体的に決めている)を残している場合と,それ以外の場合(遺言書が存在しないケース,遺言書はあるが相続分の指定しかされていないケース[法定相続分と異なる割合を指定するにとどまり,個々の財産の帰属先は明示していないもの])とで大きく変わってきます。

遺産分割の方法を指定した遺言書がある場合

  • 遺言書の有効性
    基本的には遺言内容にしたがって遺産を分けていくことになりますが,遺言書が有効に作成されたものであることが前提です。
    遺言書が作成された時,被相続人に財産を適切に処分できるだけの判断能力が備わっていたか,遺言書に法律が要求する形式が整ってるかなどを確認する必要があります。
  • 遺留分侵害の有無
    有効な遺言書であるとして,次に問題になるのが法定相続人の遺留分を侵害する内容になっていないかという点です。
    遺留分を侵害する遺贈を含んでいる場合,相続人全員がそれで納得すれば良いのですが,侵害されている相続人が遺留分減殺請求権を行使するということになってしまうと協議が必要となります。
    話し合いによる解決ができなければ,最終的には訴訟で解決をするほかないことは,遺留分のところで説明しました。
  • 遺言内容の実現(遺言執行)
    遺留分についても問題がなければ,あとは遺言の内容をその通り実現していくことになります(「遺言執行」と言います)。
    遺言の内容によっては,純粋な意味での執行は不要なケースもあるのですが,相続登記であるとか,預貯金の解約払戻しなど相続に伴う事務手続は一般の方にとっては負担となることもあります。
    そうした場合には,遺言執行者を置いて,この遺言執行者に相続財産の管理と遺言の執行に必要な行為をしてもらうということが可能です。
  • 遺言と異なる内容の遺産分割
    なお,遺言書がある場合であっても,相続人(受遺者を含む)全員で合意をすれば,遺言書とは異なる内容で遺産を分割することはできるとされています。
    但し,被相続人が,遺言で指定した分割方法以外の分割を禁止する意思を明確にしている場合については,この意思に反して別の遺産分割の合意をすることはできません。
    また,遺言執行者が指定されている場合には,この遺言執行者の同意も必要になります。

遺言書がない場合など

遺言書が作成されていない場合(あるいは遺言書が無効な場合),遺言書はあるが相続分の指定しかされていない場合の遺産分割は,法定相続人全員による協議が必要になります。

  • 相続人の確認,確定
    遺産分割の協議をするためには,まず,誰が相続人になるのかを確認しなければなりません。
    亡くなった方が再婚だった場合など,予期しなかった相続人の存在がわかることがあります。
  • 遺産の内容,範囲の確定
    分割する遺産の内容,範囲も確定しなければなりません。被相続人が単身で暮らしていた場合など,どの銀行に預金があるのか,どのような金融資産を有しているのかわからない場合があります。
    また,生前贈与が特別受益となるか否かが相続人間で争われたり,生前の被相続人の資産管理の中で使途不明金が生じているようなケースでは,まず,そうした前提問題に決着をつけなければ遺産分割の協議に入ることができません。
  • 遺産分割協議
    相続人全員で遺産をどのように分割するか協議をすることになります。
    財産(特に不動産)の評価について意見が分かれる場合,取得を希望する財産が重なる場合,現・預金が少なくて遺産を分けるにはその一部または全部を換価する必要がある場合などには協議が難航することもあります。最終的には相続人全員の合意が必要となりますが,全員が一堂に集まって合意をしなければならない訳ではありません。
    分割案を相続人間に廻して承諾を得ていくという方法でもかまいません。合意が成立すれば,それに従って分割の手続を進めて終了となります。
  • 遺産分割調停,審判
    相続人間の話し合いで合意に至らなかった場合には,家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
    調停でも調整がつかなければ,審判で分割方法を決めてもらうことになります。

相続人間に感情面での対立がある場合など,遺産分割の話し合いがスムースにできないという時は,弁護士にご相談されることをお勧めします。

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2017年11月9日 | カテゴリー : 相続、遺言 | 投稿者 : kawaguchi-saiwai