ⅷ 遺言はどのような場合に役立つか

相続についての自分の意思を明らかにしておくことにより,残された相続人の間で余計な揉めごとが生じるのを防ぐというのが,遺言を作成する動機のひとつになるでしょう。
特に次のようなケースについては,遺言を積極的に活用すべきです。

法定相続分と異なる遺産配分をしたい

例えば,同居をして自分の介護をしてくれた子どもに法定相続分より多く財産を残したいというケースです。

親を介護したことが被相続人の財産の維持に特別な貢献をしたとして寄与分が認められることはあります。しかし,寄与分のところで説明したように,寄与分が認められるには親子間の扶養義務の範囲を超えた特別な寄与があったといえる場合に限定されますし,他の相続人が寄与分の存在を認めてくれなければ,家庭裁判所に調停,審判を申し立てなければなりません。

このようなことを防ぐため,遺言書のなかで,自分の介護をしてくれた子どもに法定相続分より多めの遺産配分をしておくことができます。

法定相続人以外の人に財産を遺したい

遺言をしていない場合の相続の権利は法定相続人にしか生じません。
法定相続人ではない人,例えば,内縁の配偶者,事業の共同経営者,長年の友人などに遺産を残すためには,遺言書を作成しておく必要があります。

個人事業主が相続人の一人に事業承継をさせたい

事業を個人でしている場合には,事業用資産(不動産,機械設備,預貯金,売掛金など)はあくまでも個人に帰属しているということになるため,個人事業主が亡くなって相続が開始すると,これら事業用財産も相続の対象となってしまい,法定相続分に従って分割しなければならなくなります。後継者にと考えている相続人がいるとしても,その相続人に必要な事業用資産を相続させることができなくなるおそれがあります。
こうしたことがないよう,事業の後継者に事業用財産を相続させる旨を遺言を作成しておくことが役に立ちます。

相続人間の揉めごとをなるべく生じさせたくない

仲の良かった相続人間でも遺産問題がきっかけで、犬猿の仲になることがありますが、相続人間の仲が悪い場合にはなおさらといえるでしょう。
このような場合、遺言書があれば、相続人間の分割協議を経ることなく、指定された相続人が不動産や預金を取得することになりますから、争いが延々と続くようなことはありません。
さらに遺言書で弁護士を遺言執行者に指定しておけば、遺言の内容に事実上反対している相続人がいても、遺言通りの内容を執行することができますから、手続きが円滑に進みます。

2017年11月9日 | カテゴリー : 相続、遺言 | 投稿者 : kawaguchi-saiwai