遺言の種類と作成方法について説明します。遺言には,「自筆証書遺言」,「公正証書遺言」,「秘密証書遺言」の3種類があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言とは,遺言者自らが自筆によって全文,(作成)日付,氏名を記入し,これに捺印をして作成する遺言書です(民法968条1項)。
法律で厳格な作成要件が定められていて,この要件に反する遺言は無効となってしまいますので注意が必要です。
自筆証書遺言の作成要件
- 「全文」を自書する
本文だけではなく,日付や氏名,さらには添付する目録などもすべて自書しなければなりません。
一部をパソコンやワープロを使って作成すると無効です。代筆,代書もできません。 - 特定できる「日付」を書く
「××××年□月〇〇日」と特定して書く必要があります。
“平成29年10月吉日”というような表記では日付を特定できないため無効になります。
“〇歳の誕生日”というように日付を特定できる表記であれば有効とされます。 - 「氏名」を自署する
戸籍上の氏名であることが普通だと思いますが,それと同一でなくても,遺言者が通常用いている通称,芸名,ペンネームの類いでも,遺言者本人との同一性を確認できる表示であれば有効です。 - 「押印」する
実印である必要はなく認印でも構いません。
また,最高裁は,“指印”であっても遺言者の真意の確認,文書の完成を担保する機能において欠けるところはないとして,指印による押印を有効としています(最判H1.2.16)。
これに対し,“花押”(かおう。署名の代わりに使われる記号・符号で,手書のサインのようなもの)については,最高裁は,押印の要件を満たさないとしています(最高裁H28.6.3)。 - 「加筆訂正」の方法
遺言を間違って書いてしまい,その部分を訂正しようとする場合,遺言者は,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければならないとされています(民法968条2項)。
この訂正の方法を間違えてしまうと,訂正部分が無効になってしまうので注意が必要です。
公正証書遺言
公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは,公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。遺言者が,公証人及び証人2名の前で遺言の内容を伝え,それを公正証書にしてもらうという方法です。
作成された公正証書は公証役場にも1通が保管されます。このため,万が一,手元の公正証書遺言を紛失してしまっても,公証役場で再交付してもらうことができます。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言を作りたい方は,まず,どのような内容の遺言にしたいのか,自分の考えを整理してみましょう。その上で,公証役場に行って希望する遺言内容を公証人に伝え,具体的な条項を作ってもらうことになります。
遺言書の記載内容が固まったら作成日を調整します。作成日には,遺言者本人と証人2名で公証役場に行き,公正証書遺言の内容を確認して,間違いなければ各々が署名・押印をします。
証人を自分で確保することができない場合には,公証役場に手配してもらうという方法もあります。
公正証書遺言を弁護士に委任をして作成する場合には,遺言の内容は,弁護士と打ち合わせをしながら決めていくことになります。
公正証書遺言の作成手数料
遺言の対象にする財産の価額に応じて手数料が決められています。詳しくは日本公証人連合会のホームページでご確認ください。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは?
秘密証書遺言とは,遺言の内容については秘密にしたまま,公証人に遺言の存在についてだけ証明してもらう遺言のことです。公正証書遺言と同じ様に公証役場で公証人・証人の関与のもとに作成するのですが,公証人・証人に対して,すでに封をしている状態の遺言書を提出するので,遺言書の内容については完全に秘密にできるというものです。
秘密証書遺言の作成方法
まず,遺言者が遺言書を作成して署名・押印をします。秘密証書遺言は,自筆証書遺言とは違い,ワープロ等を使って作成しても構いません(ただし,記名ではダメ,署名が必要です)。
次に,その遺言書を封筒に入れ,遺言書に押したのと同じ印を使って封印をします。これを公証人と2人以上の証人に提出し,自分の遺言であることと氏名・住所を申し述べます。
これを受けて,公証人が提出を受けた日付と遺言の申述内容とを封筒に記載した上で,公証人,各証人,遺言作成者本人が封筒にそれぞれ署名・押印をして完成させます(民法970条1項)。
秘密公正証書遺言の作成手数料
公証人の関与が必要となるので手数料が発生します。
遺言内容が秘密であるため,公正証書遺言の場合のように対象となる目的物の価額に応じた手数料ではなく,一律に11,000円とされています。
各遺言の長所と短所
上記の3つの遺言には,それぞれ長所と短所があります。
費用の要否,証人の要否,家庭裁判所における検認作業の要否,紛失・偽造のリスクの有無,形式の不備による効力否定のリスクの有無,手続の煩雑さなどで違いがありますので,どのタイプの遺言書を作成するかの参考にしてみてください。