4 年金分割

離婚をした場合,夫の年金の一部を分割して受給できる仕組みがあると聞きました。どのような制度なのでしょうか?

年金分割とは?

結婚してから夫が会社で働き,妻はずっと専業主婦であったようなケースでは,婚姻期間中に納めた年金保険料の原資が夫の給料であるとしても,妻の“内助の功”があってこそ夫は働くことができたとも言えるので,退職金と同様,離婚後に支給される年金についても夫婦で公平に分配されるべきといえます。そこで,婚姻期間中に一方の配偶者が納付した年金保険料のうちの一部を夫婦が協力して納めたものとみなし,離婚後に他方の配偶者が受け取ることができるようにするのが年金分割制度です。

年金分割の対象となるのは?

年金分割制度は,厚生年金保険(会社員),共済年金(公務員)の「婚姻期間中の保険料納付実績」を対象とするものです。

日本の年金制度は“3階建て”の構造になっていると言われますが,このうち会社員と公務員の“2階部分”だけが対象になります。
1階部分に相当する国民年金保険,2階部分のうち自営業者が加入する国民年金基金は対象となりません(下記の図を参照ください)。

また,年金分割は,将来受給できる年金そのものを分割するものではありません。婚姻期間中の保険料納付実績を分割することにより(納付記録を訂正する。),分割を受けた側がその分の保険料を納付したものとして扱い,これによって受給できる年金の額が増えるという仕組みになっています。

年金分割(川口幸町法律事務所)

年金分割の種類

年金分割には,「合意分割」と「3号分割」があります。

「合意分割」とは,婚姻期間中の保険料納付実績を当事者の合意により分けるというものです。離婚する時に限りできるもので,按分割合の限度は最大2分の1とされています。
話し合いをしても合意ができない場合には,家庭裁判所の調停,さらには審判手続で按分割合を決めることになります。

「3号分割」は,平成20年4月1日から離婚の日までの期間について,第3号被保険者(=第2号被保険者の被扶養者である配偶者。サラリーマンの妻など)からの請求により,自動的に第2号被保険者(夫)の厚生年金保険料納付記録の5割が分割される制度です。
合意分割とは異なり,請求をすれば当然に対象期間の記録は2分の1の割合で分割されます。

年金分割の手続

年金分割の手続を行うには,まず,社会保険事務所に年金分割のために必要な情報提供を求めることになります。「年金分割のための情報提供書」という書類で,そこには分割できる年金の下限と上限が記されています。この書類の取り寄せについては,お近くの社会保険事務所に問い合わせてみてください。
日本年金機構のホームページからお住いの近くの社会保険事務所,年金相談センターを探すことができます。

社会保険事務所から提供された情報をもとにして,年金分割の分割割合について夫婦間の話し合いがまとまった場合ですが,当事者双方が署名・捺印をした合意文書を提出するだけではだめで,当事者双方が年金事務所の窓口に出向く必要があります。窓口に揃って行くことができない場合には,公正証書化した合意文書,あるいは公証人の認証を受けた合意文書を提出する必要があります。
家庭裁判所の調停,審判によって按分割合を決めた場合は,調停調書の謄本,審判書の謄本及び確定証明書を提出することになります。
手続に必要な書類の詳しいことは,年金事務所に確認してみてください。

3号分割の場合も年金事務所での手続が必要になります。
分割請求書(標準報酬改定請求書)などを提出することになります。

年金分割の期限

年金分割の手続は,原則として,離婚した日の翌日から数えて2年を経過するとできなくなってしまいます。但し,離婚時には年金分割の合意をしていなかったが,離婚した日の翌日から数えて2年を経過する前に家庭裁判所に対して按分割合を定める審判または調停の申立てをしたというケースについては,先の期限内に手続をすることが事実上不可能な場合も起きるため,審判確定又は調停成立の日の翌日から数えて1か月を経過するまでは年金分割の請求手続ができることになっています。