【注目判例】マンション管理組合の理事長を理事会決議によって解任することの可否  ~平成29年12月18日・最高裁判決~

事案の内容

 マンションの管理組合(被上告人・X)の理事長だった男性(上告人・Y)が,他の理事からの反対があったにもかかわらず,理事会の決議を経ないまま,管理会社を変更する案件を総会に諮ろうとし,臨時総会を招集する手続をとりました。これに対し,Yに反対する11名の役員は,理事会で,Yを理事長から理事に役職を変更し,別の理事Aを新たな理事長に選びました(本件理事会決議)。実際の事案では,この理事会決議の後,Yに反対する役員らは,Yを理事からも解任することを議題とする臨時総会を招集するようA理事長と管理組合(X)に請求し,これに対抗するYが理事長として別に臨時総会を招集するという非常に込み入った経過を辿るのですが,ここでは省略します。
 この管理組合の規約においては,役員の選任及び解任については総会の決議を経なければならないという規定が置かれている一方,役員の選任については,「理事・監事は組合員のうちから総会で選任する」「理事長・副理事長等は理事の互選により選任する」という規定となっていました。Yは,役員の解任手続に直接触れた規定は前者しかないことから,理事会の決議によっては理事長職を解くことはできないと主張したのに対し,管理組合(X)側は,理事会で理事長を“理事の互選により選任”できるということは,これに準じて“解任”もできると解釈してよいと主張しました。
 1審の福岡地方裁判所久留米支部判決は,「規約上,理事長を含む役員の解任は総会の議決事項」であるとして理事会の決議では解任できないと判断。2審の福岡高裁判決も1審の結論を支持しました。この1・2審の判断を不服として管理組合(X)側が上告したのが本件事案です。

最高裁判所の判断

〇 理事を組合員のうちから総会で選任し,理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合において,その互選により選任された理事長につき,理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる

→ 管理組合(上告人・X)側の主張を認め,2審の福岡高裁判決を破棄し,審理を福岡高裁に差し戻しました。

解説

 マンション管理組合の運営をめぐっては,管理会社の選定・変更,大規模修繕工事の施工業者の選定などで組合員の中に意見の対立が生じ,それが役員の解任劇にまで発展してしまうということがあります。本事案も,管理会社の変更をめぐる役員間の対立がエスカレートしたもののようです。

◇ 役員の選任,解任に関連する区分所有法の規定内容

 マンション管理組合の理事長の選任,解任の手続について,建物の区分所有等に関する法律は,“…規約に別段の定めがない限り,集会の決議によって,管理者を選任し,又は解任することができる”と規定しています(同法第25条1項。ここで「集会」はマンションでは管理組合の総会,「管理者」は理事長を指すと解して差し支えありません)。つまり,管理規約に特に定めがなければ,総会の決議によって理事長の選任,解任を行うということになります。

◇ 役員の選任,解任に関連する標準管理規約の規定内容

 では,マンションの管理規約はどうなっているのか。実は,マンションの管理規約については,国土交通省がモデルとなる標準管理規約というものを作っています(国交省のHPにアップされていますので,関心がある方はご覧ください)。この標準管理規約では,理事長など役員の選任,解任の手続きを次のように定めています(本件事案当時のもの。現在の文言は,その後の改正によって若干修正されています)。

【標準管理規約】
第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 ○名
三 会計担当理事 ○名
四 理事(理事長,副理事長,会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事 ○名
2 理事及び監事は,組合員のうちから,総会で選任する。
3 理事長,副理事長及び会計担当理事は,理事の互選により選任する。

 つまり,標準管理規約では,総会では“理事・監事を誰にするか”だけを決め,監事以外の役職(理事長,副理事長,会計担当理事)を誰に担当させるかについては,理事が話し合って決めるという仕組みになっていることになります。
 そして,多くの管理組合では,国交省の標準管理規約に準拠した管理規約が作られていて,実際,本件事案のX管理組合の管理規約も,同様の内容になっていました。

◇ 理事会決議による理事長解任の可否

 さて,標準管理規約と同じ内容の規約があるマンション管理組合において,多数の理事が,理事長(本件事案では「Y」)を不適任で辞めさせたいと考えるようになった場合,総会を開かずに,理事会の決議によって何らかの対応をすることができるでしょうか。
まず,Yを理事会決議によって理事から外してしまうということは,標準管理規約第35条2項に反することになるので,これはできません。
 次に考えられるのが,本件事案でX管理組合がした対応になりますが,Y理事長を理事長からヒラ理事にいわば“降格”するという対応です。管理規約に“理事会決議により理事長職を解任することができる”などといった規定を設けていれば,こうした対応も問題なくできるということになりますが,標準管理規約と同様の規定しか置いていない場合については,消極,積極の両説がありました。
消極説は,標準管理規約の第35条3項は,理事長を理事の互選によって選任するおきの規定であり,「解任」について定めたものではないと条文の文言を重視します。本事案の1審,2審判決は,この消極説に立つものでした。
 これに対し,今回の最高裁判決は,標準管理規約と同じ内容となっているX管理組合の管理規約の規定について,「理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると,このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである」として,積極説に立つことを明らかにしました。

コメント

 

 取締役会を置く株式会社では,代表取締役を取締役会決議によって解任することができるとされています(会社法362条2項2号)。このため,代表取締役が,突然,取締役会で解任をされるという“クーデター”のようなことが起こることになります。会社の代表者を適時,迅速に交代できるようにしておくことが,企業経営上好ましいという考え方に基づくものです。
 今回の最高裁判決は,こうした考え方をマンションの管理組合にも及ぼしたものと言えます。役職者の交代を理事会で決められるようにすることで,管理組合の運営を円滑に行えるようにする狙いがあるのかもしれません。ただ,理事会にこうした権限が認められるとなると,役員間の対立が理事会に持ち込まれてしまい,逆に,管理組合の運営が不安定になるということも起きかねません。
 今回の最高裁判決を受けて,おそらく標準管理規約も改訂されることになるのだと思われますが,みなさんのマンションの管理組合規約を標準管理規約に習って改訂するかについては,そのメリット・デメリットをよく議論して,慎重に対応することが望ましいと思います。