3 財産分与

結婚をしてから夫婦共働きで頑張ってきました。マイホームを購入した際,住宅ローンは夫名義で借り入れをしましたが,その返済には私も協力をしてきました。車も夫名義になっていますが,ローンの支払いは家計の中からしています。離婚をすることになった場合,マイホーム,車,残っているローンはどのように処理されることになるのでしょうか?

財産分与とは?

婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を離婚時に清算・分配することを「財産分与」といいます。
夫婦が共同生活を送っている間に協力して築きあげてきた財産は,どちらかの単独の名義になっていることも多いのですが,これを財産取得への貢献度を考慮して公平に分配するのが一般的な財産分与です(「清算的財産分与」と言います)。
財産分与には,このほかにも離婚後の生活の安定を図るために一方が他方に支払うもの(扶養的財産分与),離婚原因を作った側から他方に慰謝料的な意味合いとして支払うもの(慰謝料的財産分与)があります。

財産分与の対象となる財産の範囲

財産分与の対象となるのは,夫婦が婚姻期間中に築いた一切の財産です。
共有名義で購入しているものが対象になることは当然ですが,家具などのように共同生活を送るために購入した生活必需品も共有財産として財産分与の対象になります。さらに,夫婦で協力して購入したマイホームのようにどちらかの単独名義になってはいても共有財産とみなされるもの(実質的共有財産)も財産分与の対象に含まれます。プラスの財産だけでなく,夫婦で作った負債,例えば住宅ローンも財産分与の対象となります。

これに対し,婚姻前にそれぞれが取得した財産,婚姻期間中ではあってもそれぞれの親族から贈与を受けたり,あるいは相続した財産などは「特有財産」と言って財産分与の対象にはなりません。
ギャンブルや浪費で個人的に作った借金も特有財産になり,財産分与の対象には含まれません。

“負債”の扱い

財産分与では,プラスの財産に限らず,住宅ローン,自動車ローン,子どもの教育ローン,生活費のために借りた借金などのマイナスの財産(=負債)も対象となります。ただし,浪費やギャンブルなどのために一方が個人的に作った借金は,たとえ婚姻中に作ったものであっても共有財産には含まれません。

マイナスの共有財産がある場合の処理としては,プラスの財産からマイナスの財産を差し引き,残った財産を分割するのが一般的です。

退職金の財産分与

財産分与の対象になるかについてよく質問されるのは退職金です。
会社で頑張って働いていた側からすれば,退職金は自分だけのもの,“特有財産”であると心情的には主張したくなるでしょう。しかし,退職金には給与の後払いとしての性格があるとされており,普通の給与と同様,財産分与の対象に含めることとされています。会社で長年働くことができたのも,パートナーのサポートがあったからこそ,ということです。もっとも,結婚前から同じ会社で働いていたという場合には,支給される退職金全額が分与の対象となるわけではなく,婚姻期間に応じた割合を対象とすることになります。

すでに退職金が支払われている場合には,それに相当する金額が残っていれば財産分与の対象に含めることになりますが,離婚時までに使われてしまっていると,分与の対象となる財産がすでに無くなっているということで,分与の対象にはできないとされる可能性が高いでしょう。

まだ勤務を続けていて退職金が支払われていないという場合には,将来,退職金が支払われる蓋然性がどれだけあるかによって,財産分与の対象に含めるかどうかの判断が変わってきます。定年(=退職金の支給時期)までの年数,会社の規模・業績,本人の勤務状況などが判断材料になります。定年まで残りわずかという場合には,その間に会社が倒産したり,本人が懲戒解雇をされるといった可能性はそれほど考慮する必要がないということで,分与の対象に含めてよいという判断になるでしょう。
ただ,将来の退職金見込額を分与の対象として離婚時に受け取るということは,退職金の分与を“先取り”しているとも言えるので,中間利息を差し引くことになる可能性もあります。

年金と財産分与

将来受け取ることのできる年金も財産分与の対象です。これを特に「年金分割」といいます。
年金も,退職金と同様,分割の対象となるのは支給額の満額ではなく,婚姻期間中に保険料を納めた部分に相当する金額のみとなります。
年金分割については,別のところでもう少し詳しく説明します。

財産分与の基準時

離婚する以前から婚姻関係が破たん状態にあり別居をしていたが,この別居期間中に自分の名義の資産が増えたという場合,この増えた資産まで財産分与の対象となるのでしょうか。

このようなケースの財産分与については,離婚時ではなく別居時を基準に考えるべきとされています。
これは,婚姻関係が形式上は継続していたとしても,別居後の資産形成については夫婦が協力して行ったものとはいえないためです。

財産分与の割合

財産分与の割合は,財産の形成・維持に夫婦各々がどれだけ貢献したといえるかによって決めていくことになります。
しかし,現在の実務では,分与の割合はそれぞれ「2分の1ずつ」というのが一般的です。例えば,専業主婦(夫)で婚姻中に一切の収入がなかったという場合であっても,婚姻後に築いた財産の半分を取得することが原則となります。これは,「一方が働きに出てお金を稼ぐことができるのは,その間,他方が家庭を支えてくれているからだ」という“内助の功”を認めているためです。

例外的に,一方の特殊な才能や特別な努力によって普通では難しい資産形成が実現できたとされるような場合には,その特殊な才能,特別な努力等を考慮した分与割合とされることもあります。たとえば,妻が家事・育児全般を一手に引き受けながら,会社員として夫と同等に働いていたケースであれば,妻の貢献度がより多く認められる可能性があります。

また,財産分与の割合を原則1/2とすることは法律に規定があるわけではありません。このため,財産分与の割合を夫婦で話し合って決める場合は,この1/2にとらわれず自由に定めることができます。

財産分与の決定方法

財産分与については,まずは夫婦間で話し合って決めていくのが一般的でしょう。各々がプラスとマイナスの財産をリスト化し,ひとつひとつの財産について分割の方法を決めていきます。

当事者の話し合いでは決められない時には,離婚に付随する問題として離婚調停で解決することもできますし,すでに離婚の合意はできており,財産分与に関してのみ話し合いがまとまらない場合には,個別に財産分与に関する調停を申し立てることもできます。調停でもまとならなければ自動的に審判手続きに移行し,審判によって分与方法,分与割合が決定されることになります。

財産分与の請求期限

財産分与については離婚と同時に取り決めを行うのが一般的ですが,離婚時に財産分与に関して取り決めを行っていなかった場合は,離婚後でも財産分与の請求を行うことが可能です。
ただし,財産分与請求には,離婚が成立してから2年以内という請求期限があります(民法第768条第2項但書)。離婚時に財産分与について取り決めをしなかったという場合は,できるだけ早く手続きを進める必要があります。
離婚については合意ができたけれど財産分与について揉めてしまい,先に離婚を成立させたくなることもあるかと思います。ただ,離婚が成立してしまうと,別れた配偶者と連絡が取りにくくなる,行方がわからなくなる,ということも珍しくありません。離婚時にはあった財産を費消してしまうということも起きます。財産分与については離婚と同時に取り決めをすることをお勧めします。

❏ 財産処分禁止の審判前保全処分

離婚の話を切り出した後,相手方が財産分与を免れるために,その名義になっている夫婦共有財産を処分してしまうことがあります。共有財産を処分されてしまいそうな事情があるときは,家庭裁判所へ財産分与請求の調停を申し立てるとともに「財産処分禁止の審判前保全処分」の申立てをすることを検討するとよいでしょう。「金銭をめぐるトラブル(債権回収)」のところでは,「仮差押え」「仮処分」という民事保全手続を紹介しましたが,これとは別に設けられている手続になります。