5 子どもの親権の帰属

夫と離婚の話し合いをしています。お互い離婚することについては納得しているのですが,子どもの親権について意見が対立し,折り合いがつきません。夫は,パートの収入しかない私には生活力がないから子どもを育てることはできない,裁判所も親権を認めるはずがないと言います。本当でしょうか。

親権とは?

親権とは,未成年者の子どもを監護・養育し,その財産を管理するため,その父母に与えられた権利と義務の総称です。子どもに対する身上監護権と子どもの財産管理権の2つに大別されます。

離婚と子どもの親権

両親が婚姻中であれば,親権は原則としてその2人が共同で行使することになります(民法818条3項)。
これに対し,未成年の子どもがいて離婚する場合には,父か母のいずれかを「親権者」として決める必要があります(819条1項)。

協議離婚の場合には,離婚届に親権者をどちらとするか記入する欄がありますので,話し合いで決められた方を親権者として記載することになります。この親権者の指定がないと役所に離婚届を受理してもらうことはできません。
慰謝料や財産分与は離婚してから話し合って決めるということもできますが,親権者の指定については,必ず離婚と同時にしなければならない,言い換えれば,親権者が決まらないと離婚することもできないということになります。

親権者の定め方

話し合いによっては親権者が決まらない場合には,家庭裁判所に調停の申立てをして,家裁の調停委員を介して話し合いをすることになります。

調停で話し合いをしてみても,結局,お互いが最後まで譲らずに決まらないという場合には,調停を不成立にして改めて離婚訴訟を起こすのが一般的なやり方であると思います。親権の帰属が決まらないと離婚についても決断できないことが多いからです。

調停で話し合う中で離婚に関しては合意に達しているという場合には,離婚訴訟を起こさずに親権者だけを裁判所に決めてもらうというやり方もあります。

ひとつは,家庭裁判所が職権で調停に代わる離婚の審判をし,その中で子の親権者を指定するという方法です(家事審判法24条)。ただし,24条審判は当事者が異議を申し立てると効力を失うとされているので(同法25条),異議が申し立てられると,合意をしている離婚についての審判の効力もなくなり,結局,離婚訴訟を提起せざるを得なくなります。

もう1つは,離婚の手続と親権者指定の手続とを分け,離婚については調停を成立させたうえで,親権者の指定については審判に移行させ,離婚の調停条項の中に,親権者の指定については後日の審判によって指定する旨を定めておく方法です。

親権者を定める基準

裁判所は,「誰を親権者にすることが子の福祉にかなうか」という観点から親権者の指定の判断を行います。
この判断にあたっては,夫婦,子供を取り巻くあらゆる事情が考慮されますが,特に親側の事情としては,子を監護する体制が整っているか(監護候補者の健康,経済力なども含む),子に対する愛情があるか,監護意思があるかなどが,子ども側の事情としては,年齢,環境の継続性,子の意思などが考慮されることになります。

例えば,母に十分な収入のない場合にも,子どもに対する愛情があり,自ら責任を持って養育していく意思を有し,子どもとも良好な関係を築いているような場合には,母親に親権が認められることが一般的です。

なお,子どもの環境の継続性という観点から,現状の子どもの監護状況を維持しようとする傾向があることは否定できません。ただ,他方で,夫婦が別居状態で離婚の話し合いをしている最中に,子どもを監護していない親が,無断で子どもを連れ去る等の行為をすることは,親権者を決める協議・裁判手続中であることを無視する不穏当な行為ですから,親権者の適格性を判断するうえでは大きなマイナス要素となることも十分にあり得ます。

親権者の変更

離婚時に親権者を定めた後,親権者を変更することも不可能ではありません。ただし,離婚時には当事者の話し合いによる親権者の指定ができるのに対し,いったん定めた親権者を変更するには,家庭裁判所の調停,審判によらなければなりません(民法819条6項)。
このように親権者の変更について家庭裁判所を関与させているのは,子どもの利益のために必要があると認められるときに限って親権者の変更を認めるという趣旨によるものなので,かなりハードルは高いということになります。