〔lawyer’ blog〕✍ 「鶴見俊輔伝」

天皇の代替わり,改元でこれだけの騒ぎになるとは想像していませんでした。確かに,誰と会っても,何を見ても,「あっ,そう」と無機質な言葉しか発しなかった昭和天皇と比べると,平成の天皇,皇后には,国民に親しく寄り添おうという姿勢が感じられましたし, 平和や災害についての発言や行動にも好感を持てるところがありました。でも,天皇について「好感」を超えて「尊敬」という感情まで持つ国民が増えているという世論調査の結果には,時代が逆戻りしてしまわないか,ちょっと心配になったりもします。

そんな改元をめぐる騒動で印象が薄くなった観のある憲法記念日に,黒川創の「鶴見俊輔伝」を読了しました。数カ月前に手にしていながら,500頁を超すボリュームに怯んでしまい,なかなかページをめくれずにいたのですが,これが読み始めてみると本当に面白かった。私は1963年生まれなので,「声なき声の会」や「ベ平連」のことはリアルタイムではもちろん知りません。彼の著作も“転向”研究の代表作「戦時期日本の精神史」を読んだことがある程度でした。ですから,彼の祖父が関東大震災の後に内務大臣として“帝都東京”の復興計画を立案した政治家,後藤新平であることもこの本で初めて知りましたし,丸山眞男,都留重人,桑原武夫,高畠通敏らと鶴見の交流についても,事前の知識がほとんどなく,なるほどそういう繋がりがあったのかと驚くことばかりでした。一人の人物評伝を読んだというより,戦中から戦後にかけてのリベラル思想の系譜を,豊富な,そして面白いエピソードとともに教えてもらったなぁという印象です。好著でした!