1 課税処分に対する不服申し立て

国税に関する課税処分がなされた場合,これが不服であっても,すぐに裁判所に課税処分の取消を求める訴訟を提起することはできません。まず,行政上の不服申立手続を経ておく必要があります(不服申立前置主義)。
行政上の不服申立手続には,①課税処分をした税務署長等に対する「再調査の請求」と,②国税不服審判所長に対する「審査請求」の2つがあります。
平成26年の国税通則法改正前は,税務署長ではなく国税局長がした処分である場合など一定の例外を除いては,まず,「再調査の請求」(改正前は“異議申し立て”と呼ばれていました。)」から行う必要があったのですが(不服申し立てが2段階),法改正後は,「再調査の請求」と「審査請求」とを選択的に行うことができるようになりました。
国税に関する税務署の処分に不服がある場合の制度の概要については,国税庁のHPに解説図がありますので,そちらをご覧ください。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_2.htm#img16

〇 再調査の請求
課税処分に対する「再調査の請求」は,処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に,処分を行った税務署長に対して,再調査請求書を提出することによって行います。「再調査請求書」の書式は,国税庁のウェブサイトからダウンロードすることができます。記載方法についても案内があります。
国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/fufuku/annai/01.htm
再調査請求書を提出すると,その後,税務署により調査・審理が行われ,その結果は,再調査決定書謄本の送付によって通知されることになります。

〇 審査請求
課税処分に対する不服申し立て手続きのもう一つは,国税不服審判所に対して行う審査請求です。国税不服審判所というのは,公正な第三者機関として税務署や国税局などから独立して設置された機関です。
審査請求は,再調査の決定に不服がある場合は,再調査決定書謄本を受け取った翌日から1ヶ月以内に手続きをする必要があります。平成26年の法改正によって,処分を行った税務署長に対する再調査の請求を経ずに,いきなり審査請求をすることもできるようになりましたが,この場合には,処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に審査請求書を提出する必要があります。
国税不服審判所のHPに,「審査請求書」の書式,記載の書き方がアップされています。http://www.kfs.go.jp/system/02write.html
審査請求を受けた国税不服審判所では,審査請求人と原処分庁との間で言い分が対立する部分を中心に調査,審理を行って裁決を下します。国税不服審判所では,この裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を1年と定めています(平成28年3月24日付事務運営指針)

❏ 地方税に関する課税処分等についての不服申し立て
地方税(固定資産税,都市計画税など)の課税処分や滞納処分について不服がある場合には,行政不服審査法が定める不服申し立て手続によってその是正を求めることになります。
行政不服審査法も平成26年に改正されています。改正前は,上級行政庁がない場合に処分行政庁又は不作為行政庁に対して行う「異議申立て」,上級行政庁がある場合に当該上級行政庁に対して行う「審査請求」の2つの不服申立ての類型があったのですが,改正により,「異議申立て」は廃止されて,「審査請求」に一元化されました。国税に関しては,前述のとおり,「異議申立て」に代わる「再調査の請求」という不服申し立てが国税通則法によって認められていますが,地方税に関しては,そのような規定は地方税法の中に置かれていないので,行政手続としての不服申し立ては「審査請求」があるのみということになります。
なお,固定資産課税台帳に登録されている価格(新たに価格を決定したもの)について不服がある場合については,地方税法に基いて設置されている固定資産評価審査委員会という中立的な機関に対して審査の申し出をすることができます。さいたま市の例ですが,ご覧ください。
https://www.city.saitama.jp/001/004/002/002/010/p017165.html

〇 取消訴訟の提起
以上のような行政手続としての不服申し立て制度によっても処分の是正がされずに救済を受けることができなかったという場合には,原処分(課税処分,滞納処分)の取り消しを求めて裁判所に訴えを提起することになります(取消訴訟の提起)。
取消訴訟は行政訴訟の一種で,通常の民事訴訟と比べるといくつかの特殊性があります。

① 不服申立ての前置
この項の一番最初に書きましたが,課税処分がなされた場合,これが不服であっても,すぐに裁判所に課税処分の取消を求める訴訟を提起することはできません。まず,ここまでに説明した行政上の不服申立手続を経ておく必要があります
ただし,審査請求をして3ヶ月経過しても裁決が出ない場合には,裁判所に取消訴訟を提起することができます。
② 出訴期間
取消訴訟は,処分又は裁決があったことを知った日から6ヶ月以内に提起しなければならないという制限があります。(主観的出訴期間。この期間は,処分又は裁決があったことを知った日の翌日からカウントされます)。また,処分又は裁決の日から1年が経過したときは提起できなくなるという期間制限もあります(客観的出訴期間。こちらの期間は,当事者が処分又は裁決があったことを知ったか否かを問わずに,処分・裁決の日の翌日からカウントされます)。
③ 裁判の管轄
取消訴訟の裁判の管轄は,平成17年の行政事件訴訟法の改正前は,取り消しを求める処分を行った行政庁所在地の裁判所の管轄に属するとされていました(旧行政事件訴訟法12 条 1 項)。
改正後は,①被告の所在地を管轄する裁判所(国税の処分を争う場合は被告は国となるので,東京地方裁判所が管轄となります),②原処分をした税務署・国税局の所在地を管轄する裁判所(川口税務署であれば,さいたま地方裁判所が管轄となります),③原告(納税者)の普通裁判籍所在地(「住所」と考えていただければよいでしょう)を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所のいずれかに提起することができるようになりました。

③は,とてもわかりにくいですが,例えば,福島市に住んでいる納税者が取消訴訟を提起する場合,①による管轄は東京地方裁判所,②による管轄は福島地方裁判所,③による管轄は,福島市居住者の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所は仙台高等裁判所となるので,仙台高裁の所在地を管轄する地方裁判所,すなわち仙台地方裁判所にも管轄があるということになります。

❏ 税務訴訟(取消訴訟)における主張,立証活動
課税処分の妥当性に争いが生じているケースでは,税務調査の段階で,当局側の見解と納税者側の見解との対立点がある程度は明らかになっていることが多いかと思います。したがって,不服申し立て手続を経て取消訴訟を提起するという段階では,当局側の見解のどこに問題があるのかを,最初から積極的に主張,立証することが必要になってきます。課税の根拠とされる法律条文,通達類の解釈,実務の取り扱いの実態,類似事案に関する裁判例・裁決例の分析を通じた射程距離の検討などを踏まえた準備をする必要があります。その意味で,税務分野に精通した専門家のサポートが欠かせません。
平成13年に税理士法が改正され,税務訴訟については,税理士が「補佐人」という立場で法廷で意見を述べることができるようになりました。弁護士が訴訟代理人として一緒についていなければならないという条件付きではありますが,税務の専門家である税理士の法廷での活動が認められた意義は小さくはないと思います。
とはいえ,税務訴訟における納税者側の勝訴率はなかなか向上していません。国税庁が公表している国税に関する税務訴訟の勝訴率(一部勝訴を含む)をみてみると,平成28年度は4.5%にとどまっています。
取消訴訟の提起をお考えの際は,弁護士や税理士と十分な意見交換をし,万全の準備をしてから裁判に臨む必要があります。

 

2017年12月17日 | カテゴリー : 行政事件 | 投稿者 : 事務局

2 社会保険・労働保険の不服申立て手続

社会保険(各種年金,健康保険),労働保険(雇用保険,労災保険)といった社会保険制度にもとづく各種給付の支給申請をしたが,不支給となってしまったとか,予想していたよりも低い等級の認定しかされなかったという場合などには,どのような不服申し立てができるでしょうか。
社会保険・労働保険の決定に対する不服申し立てについては,行政不服審査法に基づく一般的な不服申し立てとは少し異なる手続が,国民年金法や厚生年金健康保険法,健康保険法,雇用保険法,労働者災害補償保険法といった法律の中に定められています。

◊ 社会保険の決定に対する不服申し立て
社会保険(年金,健康保険)の決定に対する不服申立ては,社会保険審査官に対して行う「審査請求」が第一段階,社会保険審査会に対して行う「再審査請求」が第二段階というように2段階になっています。どちらかで不服が認められれば,原処分は見直されることになります。
これを図にしてみると,次のとおりです。

【日本年金機構(厚労大臣)の処分に対する不服申し立て】

年金機構の原処分(支給処分・不支給処分・却下処分)

⇓ ※ 処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヵ月以内

[審査請求]
社会保険審査官(地方厚生局)に対する審査請求

⇓               ⇓
認容決定          却下・棄却決定
(原処分は見直し)

※決定書の謄本が送付され     ※ 審査請求の決定の送達を受けた日の日 た日の翌日から起算して  翌日から起算して6カ月以内
2ヶ月以内
[再審査請求]
社会保険審査会に対する再審査請求

⇓ ⇓ [取消訴訟]
認容裁決 却下・棄却裁決   地方裁判所に取消訴訟を提起    (原処分は見直し)
※裁決の送達を受けた日
の翌日から起算して6か月以内

平成26年に公正性の向上,使いやすさの向上等の観点から行政不服審査法の改正が行われたことに伴い,年金,健康保険に関する審査請求制度についても改正が行われています。
大きな改正点は2つ。1つは,改正前は,再審査請求を経ないと取消訴訟を提起することはできなかったのですが,改正後(平成28年4月以降の処分)は,審査請求をした後は,再審査請求をするか,裁判所に取消訴訟を提起するかを自由に選択できるようになりました。もう1点は,改正前は,原処分に対して審査請求ができる期間は処分があったことを知った日から60日以内とされていましたが,改正後は,3ヶ月以内と1ヶ月延長されています。

◊ 「労働保険」の不服申し立て
労働保険(雇用保険,労災保険)の決定に対する不服申立ての仕組みについても,行政不服審査法の改正に伴い,同様に見直しが行われ,平成28年4月から新しい仕組みになっています。
基本的には,年金・健康保険の決定に対する不服申し立ての仕組みと共通です。審査請求できる期間が1ヶ月延長された点,審査請求をした後,再審査請求をするか,裁判所に取消訴訟を提起するかを選択できるようになった点なども社会保険の場合と同じです。
ただ,年金・健康保険の場合は,再審査請求をするには審査請求を経る必要があるのに対し,雇用保険・労災保険の場合には,労災保険審査官や雇用保険審査官に対して審査請求を申し立ててから3ヶ月が経過しても決定がない場合には,決定を待たずに労働保険審査会に再審査請求ができるとされているなど,社会保険の場合と一部異なる取扱いもあります。

2018年1月28日 | カテゴリー : 行政事件 | 投稿者 : 事務局

3 国家賠償請求

国家賠償請求とは?
公務員の業務中の不法行為によって損害を受けたり,行政機関が所有・管理する公の施設の設置・管理の瑕疵(カシ)によって損害を受けたという場合に,国や地方自治体に対して賠償を求めることを国家賠償請求といいます。
戦前の日本においては,国家の行為によって被害が発生しても国家は賠償責任を負わないとする「国家無答責」の原則から,国家賠償請求を定めた法律はありませんでした。国の私経済的活動や非権力的行為によって損害が生じた場合には,民法の不法行為の規定によって賠償責任が認められることはありましたが,権力的行為については,国も公務員個人も責任を負わないとされていました。
これに対し,日本国憲法は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる」と定めて(第17条),国や地方自治体であっても個人の権利を違法に侵害した場合には賠償責任を負うことを明確にしました。そして,憲法のこの規定に基づいて,国家賠償法という法律が制定されています。

♦ 公務員の不法行為に基づく請求
国家賠償法第1条第1項に基づく請求です。「国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる」という条文になっています。
「公権力の行使」とは,民法が適用されることになる物品購入のような純然たる私経済作用,後で説明する国家賠償法第2条が適用されることになる公の営造物の設置・管理作用を除いた国のすべての作用をいうとされています。したがって,例えば,行政指導や公立学校の教諭による生徒への教育指導なども「公権力の行使」とされ,その行為に違法性が認められ,その行為によって国民に損害が生じていれば,賠償責任が認められることになります。

❏ 公務員の「不作為」と国家賠償
「公権力の行使」は,通常は公務員の積極的行為を指し,「不作為」はこれにあたらないのですが,法令上,具体的な作為義務を負う公務員が,この義務に違反してなすべき行為をしなかったという場合(適切な権限行使をしなかた場合)には,「不作為」についても国家賠償請求の対象となり得るとされています。
ただし,裁判例においては,公務員による規制権限の行使については広い裁量が認められていて,規制権限の不行使が国家賠償法上違法と評価されるのは,その権限を定めた法令の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らして具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場面に限定される傾向にあります。

❏ 国会議員の「立法行為」,裁判官の「裁判」と国家賠償
国家賠償法第1条第1項の「公務員」には,国会議員や裁判官も含まれます。したがって,国会議員による立法行為,裁判官による裁判についても,それによって国民の権利が違法に侵害されたと評価されれば,国家賠償の対象となり得ることになります。
ただし,裁判例は,いずれのケースについても,国家賠償法上,違法と評価される場面をかなり限定しています。国会議員の立法行為については,立法が憲法に反することが直ちに国家賠償法上違法の評価を受けるものでなく,立法内容が憲法の一義的文言に反しているにも拘らずあえて立法を行うといった例外的な場合でない限り,違法の評価を受けないとしていますし(最判昭和60年11月21日),裁判官の裁判についても,裁判官が司法権の趣旨に明らかに背いてこれを行使したといえる特段の事情がある場合に限って違法となるとされています(最判昭和57年3月12日)。

♦ 公の営造物の設置,管理の瑕疵に基づく請求
国家賠償法第2条第1項に基づく請求です。「道路,河川その他公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは,国又は公共団地は,これを賠償する責に任ずる」という条文になっています。
民法にも工作物責任という危険責任の法理に基づく不法行為の特別な規定があるのですが(民法第717条),国や公共団体についても,道路や公園,学校などの公の施設を設けてこれを広く国民の利用に提供するからには,その安全性を確保する義務を負い,施設から生じる危険についてはその責任を負担すべきという趣旨からこの規定が置かれています。
民法の工作物責任は,土地の工作物,つまり,土地に接着し人工的に設備された物でなければならないのですが,国賠法2条1項の「公の営造物」は,広く公の目的に供されている物,動産であればよく,例えば,警察官が所持している拳銃もこれに該当するので,拳銃の暴発によって市民が被害を受ければ,この国家賠償法第2条第1項の賠償責任の問題が生じることになります。
「瑕疵」(カシ)とは,“営造物が通常有すべき安全性を欠き,他人に損害を及ぼす危険性のある状態”をいうとされています。“通常有すべき安全性を欠いた状態”であれば,設置や管理に“過失”があったかどうかは問われません(=無過失責任)。

夜間,県道の道路工事箇所を通りかかった自動車が,事故直前に赤色灯が倒されていたために危険に気づくことができず転落してしまったという場合,道路を管理する自治体に対して損害賠償を求めることはできるでしょうか?


夜間,工事箇所の赤色灯が倒れて消えていたというのですから,客観的に見れば,道路の安全性を欠いた状態にあったことは明らかと言えます。そうすると,国家賠償法第2条第1項の「瑕疵」があった,“通常有すべき安全性を欠いた状態”があったと言えそうです。
しかし,裁判例の多くは,「瑕疵」の中で事故の回避可能性があったかどうかを問題にしています。質問の事案に似ている奈良県道車両転落事故事件でも,裁判所は,道路の安全性に欠如があったといわざるを得ないが,それは事故の直前に先行した他車によって惹起されたものであり,時間的に遅滞なくこれを現状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であったとして,道路管理に瑕疵はなかったと認めるのが相当としています(最判・昭和 50 年 6 月 26 日)。

 

2017年12月17日 | カテゴリー : 行政事件 | 投稿者 : 事務局

4 住民監査請求,住民訴訟

住民監査請求,住民訴訟とは?
住民監査請求とは,住民が,自分が居住している地方自治体の「財務」に関する行為に,違法もしくは不当な点があると認められる場合に,その地方自治体の監査委員に対し監査を求めて,その行為について必要な措置を講ずべきことを請求することができるという権利です。自分が直接の被害をこうむったわけではないけれども,行政機関が税金の無駄遣いをしている,あるいは,しようとしている場合に,監査委員にその是正を求めるというものです。
住民監査請求をしたけれども,監査委員の監査の結果,勧告,措置に不満がある場合には,裁判所に住民訴訟を提起することができます。
こうした,住民監査請求,住民訴訟は,日本の場合には,地方自治体についてだけ認められている仕組みです。

◊ 住民監査請求
=監査請求の対象=
住民監査請求の対象となるのは地方自治体の違法または不当な「財務会計上の行為又は怠る事実」です。

〇 違法または不当な財務会計上の行為

ⅰ)公金の支出
ⅱ)財産(土地、建物、物品など)の取得,管理,処分
ⅲ)契約(工事請負、購入など)の締結,履行
ⅳ)債務その他の義務の負担(借入れなど)
※ 上記の行為が行われることが相当の確実さで予測される場合も含む。
〇 違法または財務会計上の怠る事実
ⅴ)公金の賦課・徴収を怠る事実(市税の徴収を怠るなど)
ⅵ)財産の管理を怠る事実(市有地や市債権の保全管理を怠るなど)

=監査請求の内容=
住民監査請求によってどのような内容の請求ができるかについては,地方自治法第242条第1項で,①当該行為を防止し,又は是正すること,②当該怠る事実を改めること,③当該行為・怠る事実によって当該地方自治体が被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことの3つとされています。

=期間の制限=
住民監査請求については,正当な理由のない限り,地方自治体の違法・不当な行為があった日から1年以内にこれを行う必要があるとされています(地方自治法第242条第2項)。この期間を徒過した住民監査請求は,適法な請求とはならないため,その住民監査請求も却下されてしまうし,監査請求の却下後に提起される住民訴訟も,適法な監査請求を経ていないという理由で却下されてしまいます。

=住民監査請求の結果=
住民から請求があると60日以内に監査委員による監査(本案審査)が行われます。
審査によって監査請求が要件を欠いていることが判明したときは,請求は「却下」されます。請求に理由がないと判断されたときは,請求は「棄却」されます。これに対して,請求に理由があると認められたときには,監査委員は,議会,首長その他の執行機関または職員に対して,期間を示したうえで必要な措置を講ずるよう勧告するとともに,その勧告の内容を請求人に通知し,かつ,公表することになります(地方自治法第242条第4,5,9項)。

◊ 住民訴訟
住民監査請求をしたけれども,監査委員の監査の結果,勧告内容,あるいは勧告を受けた措置に不満がある場合には,裁判所に住民訴訟を提起することができます。
住民訴訟を提起できるのは,住民監査請求を行った人だけです(監査請求前置主義)。監査請求をせずにいきなり住民訴訟を提起することはできません。また,住民監査請求は適法なものでなければならず,不適法であった場合には,住民訴訟の内容の審査に入らずに却下されることになります。

=住民訴訟の請求内容=
住民監査請求は,違法または不当な財務会計行為(怠る事実)の是正をする仕組みであるのに対し,住民訴訟は,違法な財務会計行為(怠る事実)の是正を求める制度となっています。つまり,違法とまでは言えず不当,ということだと,住民訴訟では勝訴の結論を得られないということになります。
住民訴訟によって行うことができる請求は次の4類型です(地方自治法第242条   の2第1項)。

① 行為の差し止め請求(1号請求)
公金支出の差止めをすることにより,不要な公金の支出を事前に予防することが目的の請求です。
② 行政処分の取消しまたは無効確認請求(2号請求)
公金の支出に関する処分を取消し,もしくは,無効と確認することにより,違法状態の是正を自治体当局に再考させる請求です。
③ 執行機関,職員の怠る事実の違法確認請求(3号請求)
自治体の公金の賦課・徴収,財産管理を怠っている状態が違法であることを確認することにより,自治体の“不作為”による違法状態の是正を自治体当局に促す請求です。
④ 職員等への損害賠償又は不当利得返還請求(4号請求)
自治体の執行機関や職員の違法な行為によって自治体が損害を被ることになった場合,損害を発生させた者に対する損害賠償,不当利得返還を行うことにより,自治体の損害の補填を図る請求です。

=訴えの提起=
住民訴訟は,住民監査請求に対する監査委員の監査結果等が出されてから30日以内に提起する必要があります。具体的には次の通りです。

イ)監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合(請求却下の場合を含む)
→ 監査の結果又は勧告の内容の通知があった日から30日以内
ロ)勧告を受けた市長などの措置に不服がある場合
→ 措置に係る監査委員の通知があった日から30日以内
ハ)請求をした日から60日を経過しても,監査委員が,監査又は勧告を行わない場合
→ 60日を経過した日から30日以内
ニ)勧告を受けた市長などが措置を講じないことを不服とする場合
→ 勧告に示された期間を経過した日から30日以内

❏ 情報公開請求の活用
住民監査請求をする際は,請求内容を特定し,また,財務会計行為や怠る事実が違法・不当であることの根拠も明らかにしなければなりません。住民監査請求を効果的なものにするには,財務関係の法規に精通している必要があり,また,事前に情報公開請求等を活用して資料を収集するなどの準備が求められます。
近年はオンブズマン活動などの成果もあがっていますが,資料収集などでアドバイスを求めたい場合には,弁護士への相談もお考えください。

2018年1月28日 | カテゴリー : 行政事件 | 投稿者 : 事務局