1 金銭をめぐるトラブル:債権回収の方法

知人に3年前に貸したお金を返すよう求めているのですが,すぐに返すからと言うばかりで一向に返してくれません。貸したお金を回収するにはどのような方法があるのでしょうか?

債権回収の手段

債権を回収(貸金,売掛金,請負代金などの回収)するには,次のように色々な方法が考えられます。

支払いをしない相手方と交渉を行う

  • 内容証明郵便を送付して支払いを求める

内容証明とは,いつ,誰から誰あてに,どのような内容の文書を送付したかを郵便局が証明する特殊な郵便物の送付方法です。債務者に支払いを求める通知を出したことを客観的に証明することができ,また,受取人にそのような効果をともなう請求を受けたという心理的な圧力をかける効果が期待できます。

支払督促の手続を利用する

  • 民事調停の手続を利用する
  • 民事訴訟(少額訴訟を含む)を提起する
  • 担保権を実行する(抵当権などの約定担保権,先取特権などの法定担保権)
  • (一般的な方法では必ずしもありませんが)債権者として支払いをしない会社の破産を申し立てる

2 金銭をめぐるトラブル:債権回収手段を選択する基準

債権を回収するために色々な手段があることはわかりましたが,どの手段を使うのかは何を基準にして決めればよいのでしょうか?

 回収手段を選択する基準

債権の種類がどのようなものか(時効期間,担保権の有無)、相手方の資産状態・経営状況はどうなっているか、これまでの相手方との取引状況等の情報を集め、回収可能性を見極め、また、今後の相手方との取引関係をどうするかも考えながら、最も適切な回収方法を選択することになります。

3 金銭をめぐるトラブル:相手が任意の支払いに応じない場合の対処(強制執行)

相手方と交渉をして合意内容を公正証書にしても、あるいは、支払いをしない相手方に対し裁判を起こして勝訴判決を得ても、それでも相手方が支払いをしてこないという場合には、何か方法はあるのでしょうか。

強制的な債権の回収

任意に支払いに応じてこない相手方に対しては、その資産を探し出して差押えを行うことを検討することになります(強制執行)。
差押えの対象となる資産としては次のようなものが考えられます。

  • 不動産
  • 債権(相手方が取引先に対して有している売掛金や請負代金、有価証券、預金など)
  • 動産(現金,自動車,重機等)

不動産は一般的には高価値であるので、担保がついていない不動産を差し押さえることができれば、回収できる可能性があります。
ただ、不動産執行は、執行官による現況調査、評価人(不動産鑑定士)による鑑定評価などの手続を踏むため、動産への執行や債権への執行と比べると,時間と費用がかかってしまうというデメリットがあります。

不動産執行や動産執行と比べると、預金や売掛金などの債権を対象とした債権差押えは簡便ですし、手続に要する時間も短いというメリットがあります(順調に進めば2週間程度)。相手方の預金口座や取引先に対して持っている売掛債権などの情報を得ている場合には,債権差押えは非常に有効な回収手段になります。ただ、そうした情報を何も得ていないと,差押えをする債権を見つけることは容易ではありません。

4 金銭をめぐるトラブル:民事保全手続とは?

債権を回収しようとする場合,民事保全手続をとっておくとよいと聞きました。民事保全手続きとはどのようなものですか?

民事保全手続とは?

支払いをしてくれない相手方に対し民事訴訟を提起し,勝訴判決を得たとしても,その間に相手方が差押えの対象となるような資産を処分し,あるいは隠してしまうと何もすることができません。そのようなことにならないよう,相手方が訴訟中に財産を処分することを防ぐ手続を民事保全手続と言います。

「仮差押え」と「仮処分」
金銭の支払いを目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれがある時,これを防ぐために行う民事保全手続を仮差押えと言います。

動産の引渡請求権や建物の明渡請求権など金銭債権以外の債権の強制執行をすることができなくなるおそれがある時,これを防ぐために行う民事保全手続を係争物に関する仮処分と言います。

権利関係について現実に生じている損害の拡大を防ぎ,権利関係を暫定的に定めるために行われる民事保全手続を仮の地位を定める仮処分と言います。
使用者から解雇された労働者が,その解雇の不当性を裁判で争おうとしても,賃金の支払いを受けることができなければ,生活が破綻してしまいます。
このような場合,雇用契約上,労働者の地位があることを仮に定め,賃金の仮払いを命じてもらうのが,この仮の地位を定める仮処分の一例です。