重要事項の説明義務が果たされていなかった場合,売買契約を解除できるか

マンションの販売業者が重要事項についての説明義務を果たしていなかったと言える場合,マンションの売買契約を解除することはできるのでしょうか。

説明義務違反を理由とする契約解除の可否について

普通に調査をしていればペット霊園の建築計画を把握することができたはずだと言える場合には、マンションの販売業者には責任が生じます。
ただ、その場合でも、買主が売買契約を解除できるかについては、別の考察が必要になります。

近くに暴力団事務所があることを知らされずに土地を購入してしまった買主が、その事実を知っていながら土地を売却した売主に対し、説明義務違反を理由とする契約の解除等を求めた事案において、裁判所は、「説明義務違反は、本件契約に基づく債務の不履行の問題ではないから、債務不履行を理由とする本件契約の解除も認められない」として買主の解除の主張を退け、損害賠償請求のみを認めました(東京地裁平成25年8月21日判決)。

したがって、ご質問のケースでも、説明義務違反を理由とする契約の解除は容易には認められないでしょう。

もっとも,売主(マンションの販売業者)が隣接地にペット霊園の建築計画があることを知っていながら、敢えてこれを買主に隠してマンションを販売したという事情まで立証できれば、詐欺を理由とする契約の取消し(民法96条)、あるいは錯誤を理由とする契約の無効(民法95条)を主張する余地はあるかもしれません。

隣接地にペット霊園の建築計画があることを知らされないまま,マンションを購入してしまった

昨年,分譲マンションの部屋を購入したのですが,今年になって,マンション南側の隣接地に火葬場もあるペット用霊園の建築計画があることがわかりました。
市に確認をしてみると,業者からは1年以上前にペット霊園設置の許可申請が出されていたそうです。マンションの販売業者には,こうした施設の建築計画の存在について説明する義務があったとはいえないでしょうか。

宅地建物取引業法の重要事項説明義務

宅地建物取引業法では,宅地建物の取引を行う際,宅地建物取引士が買主に対して説明をし、また、説明内容を書面に記載して買主に交付しなければならない重要事項を規定しています(35条 重要事項説明)。この重要事項には,全ての取引において共通して重要事項になるものと(法35条1項の第1号から第14号で規定されたもの。絶対的説明事項)、個別の取引において説明が要求される重要事項(相対的説明事項)があるとされています。

いわゆる迷惑施設、嫌悪施設と呼ばれるような施設の情報については、法律では絶対的説明事項とはされていません。個別の取引において、その情報が買主の購入の判断に影響を与えるものと客観的に評価される場合に、相対的説明事項として説明が必要になってくると考えられます。

廃棄物処分場、刑務所,原子力関連施設のように近隣の住民に不快感、不安感を与えることが誰の目からみても明らかな施設に関する情報は、相対的説明事項として買主に説明される必要があります。
ただ,迷惑施設,嫌悪施設と感じるか人によって受け止めが分かれるような施設については、相対的説明事項には含まれないとされる可能性もあります。質問にあるようなペット霊園事業については、法律にはこれを規制するものはなく、業界団体も、迷惑施設・嫌悪施設などではないと訴えています。

しかし、ペット霊園の設置をめぐり近隣住民との間でトラブルとなる事例は多発していて、条例を制定してこれを規制している自治体も多くなっています。このような状況を踏まえると、ペット霊園に関する情報は、買主に説明されるべき事項に含まれると言うべきでしょう。