取り決めのなかった更新料を支払う必要があるのでしょうか?

祖父の代から借地上の同じ建物に住んでいます。土地を借りたのは戦後間もない時期で,更新料の取り決めなどはありません。
父の代になってから,1度,借地契約が更新されたことがあるのですが,その時も更新料の支払いはしていません。
ところが,地主から,来年予定されている更新時には,更新料を支払ってもらいたい,更新料の支払いをしないのであれば,更新には応じられないので土地を明け渡してもらいたいと通告されました。
更新料の支払いをする必要があるのでしょうか。

更新料の支払義務

更新料は,借地契約を更新する際,契約更新を行うことの対価として借地人から地主に支払われる一時金を言います。
この更新料については,契約の中で取り決めがなされている場合を除いて,更新の際に当然に支払わなければならないものではありません。
地主の側からは,「この辺りでは更新にあたって更新料を支払う慣行がある」という主張がなされることも多く,実際,大都市周辺では更新料支払いの慣行がある程度進んでいるようです。しかし,地主の請求により当然に更新料支払義務が生ずるという慣習法は存在しないというのが現在の判例の立場です(最高裁昭和51年10月1日判決)。
ご質問のケースでも,地主からの請求に従って更新料を支払う義務はありません。

更新料を支払う義務がないのに,更新料を支払う慣行がある程度進んでいるのは,これを支払っておかないと地主の側から正当事由があるとして契約の終了を主張されたり,借地人が借地権の譲渡・転貸,建物の増改築を行おうとする場合,更新料の支払いをしておかないと,地主から承諾を得ることが難しくなってしまうといった事情があるためです。したがって,近い将来,借地権の譲渡・転貸や建物の増改築を考えているといった事情がある場合には,義務はないからといって更新料の支払いをしないということが本当に得策か,弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

大家さんからの退去依頼に応じなければならないのでしょうか?

アパートの大家さんから,「建物が古くなって危険なので取り壊すことになった。半年後の契約期間満了時に退去してもらえないだろうか」と言われました。アパートの建物はたしかに古くなっていますが,学生時代から住んでいて,場所も気に入っているので退去したくはありません。退去に応じなければならないのでしょうか?

(建物賃貸借)更新拒絶の正当事由

アパートの賃貸借契約について貸主が契約期間の満了に合わせて借主に退去を求めるには,「期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知」をしなければならないとされています(借地借家法26条1項)。
また,この通知は,「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合」でなければすることができないとされています(同法28条)。

少しわかりにくいかもしれませんが,貸主と借主のどちらが建物の使用を必要としているか,貸主と借主との間でこれまで権利金・更新料等の金銭の授受があるか,賃料はきちんと支払われてきているか,借主は建物を普通に使っているか,建物に老朽化などの問題は生じていないか,さらには貸主から借主に立退料の申出をしているか等の事情を考慮して,「正当な事由」がある場合でなければ,契約終了の通知は効力を有しないという意味です。

ご相談のケースでは“建物が古くなっている”という事情はあるようですが(建物の現況),どこまで危険な状態となっているのかはわかりません。
仮にそれほど費用をかけずに修繕をすれば住居として使用することに問題ない程度であれば,正当事由としては認められにくく,むしろ,賃貸人には賃借人の建物使用に支障が生じないよう補強工事を実施する義務があるとされることもあるでしょう(東京地裁平成22年3月17日判決)。
これに対し,耐震診断を満たしておらず,強い地震が発生すると倒壊の危険があるが,補強工事には高額の費用がかかり賃貸人がこれを負担することができないというような事情がある場合には,賃借人の建物利用の必要性の程度にもよりますが,正当事由が認められることもあるでしょう

なお,貸主からの立退料の支払いは,そのままでは正当事由が不十分なときに,これを補うものとして機能します。
どのくらいの立退料の提示があると正当事由を補完するものとなり得るかについて明確な基準があるわけではありませんが,一般的には,現在の物件と似た条件・程度の物件を確保するために必要な費用,転居費用などを考慮することになると思います。

ご相談のケースでは,建物の老朽化の程度,耐震基準との関係,修理(補強工事)の可否,それにかかる費用などがわからないと正当事由が認められるかの判断がつきません。
まず,これらについて大家さんに説明を求める必要があります。
その上で,専門家にも相談をし,もし,正当事由が認められる可能性があるとなれば,立退料の支払いを求めて交渉することも検討しなければならないでしょう。

増額された家賃を支払わなければいけないのでしょうか。

家賃が近隣相場よりもだいぶ低くなっているという理由で大家さんから家賃の増額を通告されました。今まで月額8万円だったものを10万円にするというのです。通告された通りに増額された家賃を支払わなければいけないのでしょうか。

賃貸人からの一方的な賃料値上げへの対処法

借地借家法は,借家の賃料について,「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」に契約当事者は増額,減額を請求できると規定しています(32条1項)。そして,この賃料の増額請求,減額請求の効果は,その意思表示が相手方に到達した時点から将来に向かって生じるものとされています。
ご質問のケースでは,大家さん(賃貸人)の値上げ通告を賃借人が受け取った時から増額の効果が生じることになります。

ただ,この場合,大家さん(賃貸人)の“言い値”で増額が決まるわけではなく,“適正賃料”までの増額の効果が認められるに過ぎません。適正賃料について見解の対立があれば,まず,賃貸人と賃借人との間で協議を行い,それでも調整がつかなければ,裁判所で適正額を決めてもらうことになります。
まず調停を申し立て,調停でもまとまらない場合に訴訟を提起するということになります。そして,この適正額が定まるまでの期間は,賃借人は従前の賃料を支払ってさえいれば,賃料不払いで賃貸借契約を解除されるということはありません。

ただし,例えば,賃借人が賃貸人からの賃料増額を裁判で1年かけて争ったが,判決で賃料増額が認められてしまったという場合には,遡って増額された賃料と従前の賃料との差額を支払う必要がありますし,この差額の支払いには年10%の利息を付さなければならないと法律で規定されていますので(借地借家法32条2項),注意が必要です。