【注目判例】 再転相続人の熟慮期間の起算点について :最高裁第2小法廷R1.8.9判決

事案の概要

 甲銀行は,乙会社に貸金等の返還を求めるにあたり,乙社の貸金等返還債務の連帯保証人となっていたA(X2の叔父)らに対し,連帯保証債務の履行として8000万円の支払いを求める訴訟を提起し,平成24年6月7日,甲の請求を認容する判決が言い渡され,その後,この判決は確定しました。判決言渡し直後の同月30日,Aが死亡し,相続人であったAの妻,子2人は,同年9月までに家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理されました。この結果,Aの兄弟姉妹およびその代襲相続人(亡くなった兄妹姉妹の子)の合計11名がAの法定相続人となったのですが,このうちB(Aの弟でX2の父親)は,平成24年10月19日,自分がAの相続人となったことを知らないまま,したがって,相続の承認あるいは放棄の手続をとらないまま,死亡してしまいました。Bの法定相続人は,妻X1と二人の子(X2ほか1名)です。
 甲銀行から平成27年6月に上記の確定判決にかかる債権を譲り受けたY社は,同年11月,X1,X2について,その相続分の範囲で強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受け,これが同月11日,X2に送達されて,X2は初めて父BがAの相続人になっていたこと,自分がBからAの相続人としての地位を承継していたことを知りました。さらに,Y社は,平成28年1月12日,Bが所有していた不動産について相続による所有権移転登記を代位により経由した後,この不動産について強制競売の申し立てを行いました。そこで,X2は,X1とともに,平成28年2月5日,Aからの相続について家庭裁判所に相続放棄の申述を行い(同月12日にこの申述は受理),さらに,同月23日,相続放棄をしたことを異議事由として,Y社の強制執行を許可しないことを求める「執行文付与に対する異議の訴え」(民事執行法34条)を提起しました(なお,X1は,第1審で相続放棄の再抗弁を撤回しています)。
 原審は,“再転相続”が生じた場合の再転相続人の熟慮期間を定めた民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったとき」について,相続の承認又は放棄をすることができる状態であること,すなわち,第一相続(*本件ではAの相続)が開始したことを知っていることを前提としていると読むべきであり,第一相続の相続人(*本件ではB)が自己のために第一相続が開始していることを知らずに死亡した場合は,民法916条はそもそも適用されず,第一相続の相続人としての地位を包括承継した再転相続人(*本件ではX1,X2)が,民法915条の規定に則り,第一相続についての承認又は放棄をすれば足りるとし,本件の場合,Aの相続(第一相続)に関するX2の熟慮期間は,X2が父BからAの相続人ついての地位を承継した事実を知った時から起算され,本件相続放棄は熟慮期間内にされたものとして有効となると判断しました(大阪高等裁判所・平成30年6月15日判決)。
 今回は,Y社の上告について最高裁が示した判断を紹介します。

裁判所の判断

 

〇 熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法915条)の解釈
  相続人は,自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ、当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから,民法 915 条 1 項本文が熟慮期間の起算点として定める『自己のために相続の開始があったことを知った時』とは,原則として,相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される(最高裁昭和57 年(オ)第82 号同 59 年 4 月 27 日第二小法廷判決・民集 38巻 6 号 698 頁参照)。

〇 再転相続人の熟慮期間を定めた民法916条の趣旨
  民法 916 条の趣旨は,「BがAからの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,BからAの相続人としての地位を承継したX2において,Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する ことになるという点に鑑みて,X2の認識に基づき,Aからの相続に係るX2の熟慮期間の起算点を定めることによって,X2に対し,Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障すること」にあるのであり,「X2 のためにBからの相続が開始したことを知ったことをもって,Aからの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,X2に対し,Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法 916 条の趣旨に反する。」

〇 民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったとき」の解釈
  以上によれば,「民法 916 条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。」

  なお,最高裁は,原審・大阪高裁が民法916条が適用される場面をBにおいて自己がAの相続人であることを知っていた場合に限定した点については,「Bにおいて自己がAの相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法 916 条が適用されることは,同条がその適用がある場 面につき,『相続人が相続の承認又は放棄をしな いで死亡したとき』とのみ規定していること及び 同条の前記趣旨から明らか」であるとして,原審の判断には民法 916 条の解釈適用を誤った違法があると指摘しています(本件の相続放棄が熟慮期間内にされたものとして有効との結論は是認)。

解 説

 

◇ 相続の承認,放棄と「熟慮期間」
  人が亡くなると自動的に相続が開始します。相続とは亡くなった人(被相続人)の財産,権利・義務の一切を引き継ぐことを言い,財産にはプラスの財産だけではなくマイナスの財産 (負債)も含まれるので,負債を多く抱えていた人を必ず相続しなければならないとしてしまうと,相続人としては他人の死という自分ではコントロールできないことによって非常に酷な状態に置かれてしまうことになってしまいます。このため,民法は,相続人に相続を承認するか放棄するかの選択権を認めています。この相続を承認するか,それとも放棄するかを選択する期間について,民法915条1項は,「相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と規定しています。この3ヶ月を相続の熟慮期間と言います。3ヵ月という短い期間ではどうしても選択できないという場合には,家庭裁判所の許可が必要になりますが,熟慮期間を伸長することも認められています(同項但書)。
  熟慮期間の起算点は,条文では「自己のために相続の開始があったことを知った時」となっており(915条1項),最高裁判例においても,原則として,「相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時から起算すべきもの」とされています(本件判決が引用する最高裁第2小法廷昭和 59 年 4 月 27 日判決・民集 38巻 6 号 698頁)。ただ,この最高裁判例は,「相続人が右各事実を知った場合であっても,右各事実を知った時から 3 か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,被相続人に相続財産 が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人において右のように信ずるについて相当な理由が認められるとき」には,例外として,「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」から起算するのが相当としています。亡くなった人に相続財産がないと信じることについて無理からぬ事情がある場合に限って,3ヶ月を徒過してしまっても,相続放棄の機会を認めている訳です。

◇ 「再転相続」とは?
  本件では「再転相続(さいてんそうぞく)」が生じた場合の熟慮期間の起算点が問題となっています。「再転相続」とは,ある相続(一次相続)が開始した後,その相続人が相続の承認または放棄をしないまま死亡し,二次相続も開始したケースにおける二次相続の相続人による一次相続の相続のことをいいます。本件では,X1,X2らがAの相続についての再転相続人ということになります。
  再転相続人からみると,承認または放棄の選択をする対象となる相続が2つ(第一相続と第二相続)あることになります。この点について,再転相続人の第一相続に関する選択権は第一相続の相続人から引き継がれるものではなく再転相続人の固有の権利であるとして,再転相続人は,第一相続,第二相続とも,順序に関係なく承認・放棄を自由にできるとする見解もありますが,最高裁昭和63年6月21日判決は,再転相続人は第一相続,第二相続のそれぞれについて承認・放棄を格別に選択することができるが,先に第二相続を放棄した場合には,再転相続人は第一相続の相続人の権利義務を何ら承継しなくなるとして,第一相続についての選択権も失うことになるとしています(この最高裁の考え方によれば,先に第一相続を承認し,後から第二相続を放棄することは可能ということになります)。
  本件では,X1,X2らは,第二相続(Bの相続)について相続放棄の手続を採っていないので,第一相続(Aの相続)について承認・放棄の選択をすることは順序の点からは問題とはならず,3ヶ月の熟慮期間をどこから起算すべきかが争われました。

◇ 「再転相続」における第一相続の熟慮期間の起算点
  再転相続が生じた場合の熟慮期間の起算点については,民法915条1項の特則として916条が設けられており,「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と規定されています。「その者の相続人」が再転相続人(本件のX2ら)を指すことは明らかですが,「自己のために相続の開始があったことを知った」という対象となるのは第二相続のことなのか,それとも第一相続のことなのかに争いがありました。
  原審の大阪高裁は,前者の立場,すなわちX2が第二相続(Bの相続)の開始があったことを知った時から第一相続の熟慮期間も原則として起算されるとした上で,例外として,第一相続の相続人(B)が第一相続の相続人となったことを知らずに死亡した場合には916条は適用されず,915条の規定に則り,「自己のために相続の開始があったことを知った時」から第一相続の熟慮期間を起算すればよいと判断しました。第二相続の開始を知った時から第一相続の熟慮期間も起算されるという見解は,実は従前の通説的見解であったようです。しかし,この見解に立つと,本件のように第一相続の被相続人Aとの関係が疎遠な人が再転相続人となるケースにおいては,再転相続人が全く予想できない形で負債を相続してしまうリスクも出てきます。原審の大阪高裁判決は,こうした不都合を916条の適用場面を限定することによって解消しようとした訳ですが,本最高裁判決は,第一相続の相続人が第一相続の相続人となったことを知っていた場合に916条の適用場面を限定するという解釈は条文の文言及び916条の規定の趣旨から取り得ないと大阪高裁の見解を退けた上で,再転相続人(X2)が「当該死亡した者(=B)からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続(=Aの相続)における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時」を熟慮期間の起算点とすることにより,再転相続人の選択の機会を保障したのです。

コメント

 本判決は再転相続における熟慮期間の起算点を規定する民法916条の解釈を示した初めての最高裁判決として注目されました。核家族化,そして少子化が進展している現代では,疎遠になっている親族の相続人となるケースは決して珍しくないと思われます。その場合,債務を抱えていた人の相続人となったことを知った時から3ヵ月の熟慮期間が起算され,その間に相続放棄をすれば債務を引き継がなくてすむことが今回の判決により明確になりました。今後の債権回収の実務等にも影響があるものと思います。

2月7日(金)埼玉弁護士会主催:映画『眠る村』上映会のお知らせ

埼玉弁護士会では,映画『眠る村』の上映会を下記の日程で行います。この映画は,戦後,唯一日本の刑事司法が一審の無罪判決を取り消し,逆転“死刑”判決を下した名張毒ぶどう酒事件の今なお残された謎を追った東海テレビ製作によるドキュメンタリー番組の劇場版です。映画上映後には,鎌田麗香監督による講演会も予定しています。多くの皆さまの参加をお待ちしています(入場は無料,予約は不要です)。
 
【日 時】2月7日(金) 開場 午後6時  開演 午後6時15分
【場 所】浦和コミュニティセンター多目的ホール(浦和駅東口パルコ上コムナーレ10階)
【問合先】埼玉弁護士会 048-863-5255

年末・年始の休業のお知らせ

誠に勝手ながら,12月27日(金)から1月7日(火)まで冬季休業とさせていただきます。1月8日(水)午前10時から通常営業となります。

メールでのご連絡,お問い合わせについても,年明け8日水曜日からの対応となりますことをご了承ください。ご不便をおかけしますが,よろしくお願い致します。

 

10月5日(土) 埼玉弁護士会主催・講演会「家族・施設という闇を暴く」のご案内

埼玉弁護士会では,10月5日(土)午後6時30分から,高齢者・障害者虐待の現状と方策をテーマとした講演会を開催します。
 
当日は,「当事者主権」(岩波新書)の著者でもある上野千鶴子さんを講師としてお招きし,高齢者・障害者を介護を受ける客体としてとらえるのではなく,高齢者・障害者本人が主体として自分の生活を決め,家族や介護従事者らはその意思決定を支援していくという“当事者主権”の立場から,高齢者・障害者虐待の問題の解決への方途についてお話し頂く予定です。関心がおありの方は,ぜひご参加ください。
 
日時:2019年10月5日(土)午後6時開場 午後6時30分開演
会場:埼玉会館小ホール
* 事前申込は不要ですが,先着500名となっています。

 

【注目判例】 マンション管理組合総会における高圧一括受電方式導入決議の効力が否定された事案:最高裁H31.3.5判決

事案の概要

 〇〇マンション(区分所有建物4棟,総戸数544戸。「建物の区分所有等に関する法律」は,一団地内に数棟の建物がある場合,“団地”,“団地管理組合法人”と呼ぶのですが〔65条以下〕,ここでは便宜上,“マンション”,“管理組合法人”としておきます。)では,従来,各区分所有者は,各自の専有部分において使用する電力の供給契約をA電力会社との間で個別に締結していました。電力の供給は,マンションの共用部分に設置された配電設備を通じて行われていました。
 マンションの管理組合法人(Z)は,区分所有者の専有部分の電気料金の削減を図るため,平成26年8月の通常総会において,Zが一括してA社との間で高圧電力の供給契約を締結し,各区分所有者はZとの間で各自の専有部分において使用する電力の供給契約を締結するいわゆる一括高圧受電方式へと変更する旨の特別多数決議を行いました(以下,本件決議と言います)。その後,高圧受電方式に変更するためには,A社と個別契約を締結している区分所有者全員がその解約手続を行う必要があったため,平成27年1月の臨時総会で,高圧受電方式以外の方法により電力の供給を受けてはならないことを規定する「電気供給規則」を新たに制定する旨の特別多数決議を行いました(以下,この決議に従って制定された規則を本件細則と言います)。Zは,これらの決議及び本件細則に基づき,区分所有者全員に対し,A社との個別契約の解約申し入れに係る書面の提出を求めたのですが,Yら2名はこの書面をZに提出せず,また,A社に対しても個別契約の解約申入れをしませんでした。この結果,〇〇マンションでは高圧受電方式への変更ができなくなり,Zは,平成28年8月の総会で,高圧受電方式の導入を保留する特別多数決議を行うことになりました。
 このような状況において,Zが設置した専門委員会の一員として高圧受電方式の導入に向けて奔走したXは,A社との個別契約の解約申入れをすべきとする総会決議,本件細則に基づく義務にYらが違反したため,高圧受電方式への変更が実現せず,その結果,専有部分の電気料金が削減されないという不利益・損害を被ったと主張し,Yらを被告として損害賠償を求める訴えを提起しました。Yらは,電力などライフラインの供給元の選択は,専有部分の区分所有者が自由に決することができる事項であって,本件決議は,区分所有権の本質的事項にかかわるものとして法的拘束力がない等と反論しました。
 1審の札幌地方裁判所は,Yらが主張したライフライン供給元の選択の自由について,「区分所有建物にあって,電力会社から受ける電力は全体共用部分,各棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから,電力の供給元の選択においても,共同利用関係による制約を当然受けるものである」と判示し,本件決議等により設定された義務にYが違反したことによってXには高圧受電方式による低廉な電気料金という利益を享受できなくなるという損害が生じているとして,Xの請求を一部認容しました(H29.5.24判決)。控訴審においても第1審の判決が維持されたため(札幌高裁H29.11.9判決),Yらが最高裁に上告したというのが本件の経過となります。今回は,Yらの上告について最高裁が示した判断を紹介します。

裁判所の判断

 

○ 本件決議は「共用部分の変更又はその管理に関する事項」を決するものとして効力を認めてよいか
 本件決議の効力を否定。
「本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの,本件決議のうち,団地建物所有権者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。したがって,本件決議の上記部分は,法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない」

○ 本件細則は「建物所有権者相互間の事項」を定めたものとして効力を認めてよいか
 本件細則について「建物所有権者相互間の事項」を定めた規約としての効力を否定
「本件細則が,本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても,その部分は,法30条1項の『建物所有者間相互間の事項』を定めたものではなく,同項の規約として効力を有するものとはいえない」

解 説

 

◇ マンション共用部分の「管理」「変更」
 民法上,管理行為(広義)とは,財産を現状において維持し(=保存行為),また,財産の性質を変更しない範囲で利用改良を目的とする行為(=狭義の管理行為)とされています。マンション共用部分の管理として考えてみると,共用部分の清掃,損壊部分の修繕などは保存行為,共用部分の駐車場を貸して賃料収入を得ることは利用行為,共用部分に設置された電灯をLEDに変更するような行為は改良行為ということになります。以上の管理行為(広義)に対して,財産の性質・形状の一方または両方を変えることを変更行為と言います。マンション共用部分で考えてみると,エレベーターの設置や集会室の増築といった行為がこれに当たることになります。

◇ 共用部分の管理,変更に関する区分所有法の規定
 「建物の区分所有等に関する法律」(以下,区分所有法と言います。)は,前記のようなマンション共用部分の管理,変更について,どのような規定を置いているかを確認しておきます。

第17条(共用部分の変更)
 1 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は,区分所有者及び議決権
   の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。ただし,この区分所有者の定数は,規約でその過
   半数まで減ずることができる。
 2 前項の場合において,共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは,その専有部
    分の所有者の承諾を得なければならない。
第18条(共用部分の管理)
 1 共用部分の管理に関する事項は,前条の場合を除いて,集会の決議で決する。ただし,保存行為は,各
    共有者がすることができる。
 2 前項の規定は,規約で別段の定めをすることを妨げない。
 3 前条第2項の規定は,第1項本文の場合に準用する。
 4 共用部分につき損害保険契約をすることは,共用部分の管理に関する事項とみなす。

 
 まず,管理行為のうち“保存行為”については,集会の決議は必要とせず,各共有者(区分所有者)が単独で判断して行うことができるというとになります(第18条1項但書)。この場合,区分所有法は,「各共有者は,規約に別段の定めがない限りその持分に応じて,共用部分の負担に任じ」と規定しているため(第19条),保存行為を行った共有者からの費用を求償されると,規約に別段の定めが置かれていなければ,他の共有者は応分の費用負担をしなければならないということになります。勝手に高額な費用をかけて保存行為をし,後からその負担を求めるといったことを防ぐため,規約に別段の定めが置かれていることが多いと思います。“利用行為”,“改良行為”については,第18条1項本文により,集会の決議によって決せられることになります。
 次に,変更行為については,変更が共用部分の形状または効用の著しい変更になる場合と,それ以外の軽微な変更にとどまる場合とで,手続が区別されています。前者の著しい変更の場合には,4分の3以上の多数による集会の特別決議で決めなければならないのに対し(第17条1項本文。但し,この区分所有者の定数については規約で過半数まで減ずることは可能〔同項但書〕),前者の軽微な変更については,過半数による普通決議で決めることができるとされています(第18条1項の「共用部分の管理」に軽微な変更が含まれると解釈されています)。形状・効用の“著しい変更”であるか否かによって決議要件が変わってくるので,その区別が重要になるのですが,その判断は実際には簡単ではありません。マンション標準管理規約を定める国交省のコメントをみていくと,耐震工事でも基本構造部分への加工の程度が小さいものは普通決議でよいとされ,また,鉄部塗装,外壁補修,屋上防水,給排水管の更新,TV共聴設備等の工事も普通決議で足りると判断されているようです。
 共用部分の変更,あるいは管理により,専有部分の使用に影響を与えることがあり得ます。区分所有法は,それが“専用部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき”は,その専有部分の所有者の承諾を得なければならないと規定して調整を図っています。“特別の影響”とは,「当該変更行為の必要性,有用性と当該区分所有者の受ける不利益とを比較衡量して,受忍すべき範囲を超える程度の不利益」と解されていて,その程度に至らない軽微な影響にとどまるときには承諾は不要とされています。

◇ 電力供給方式の変更と共用部分の管理
 建物全体の電力量が50kw以上の中規模・大規模マンションでは,高圧電力をそのまま敷地内に置かれた受変電設備に引き込み,低圧電力に変換してから配電設備を使って各住戸に供給される仕組みとなっています。電力自由化の前に建設された中規模・大規模マンションにおいては,受変電設備,配電設備,各住戸のブレーカー,メーターといった設備はすべて電力会社が所有,管理していたのですが,2005年の電力自由化以降,中規模・大規模マンションにおいては,管理組合が電力会社から一括して高圧電力を買い取り,管理組合が所有・管理する受変電設備を使ってこれを低電圧に変圧し,各住戸に対して低圧電力を販売することが可能になりました(一括高圧受電方式)。本件の〇〇マンションも,この一括高圧受電方式の導入を目指して,本件決議等を行ったことになります。
 受電方式の変更は,マンション敷地内にある受変電設備,配電設備の所有・管理形態の変更を伴いますから,これが共用部分の変更(もしくは管理)に関する事項として,総会の決議が必要となることは明らかです。しかし,本件決議や決議に基づいて作られた本件細則には,各区分所有者に対し,A社との間で結んでいる電気供給契約の解約申入れをすることを義務づける内容まで含まれるため,導入に反対する区分所有者の契約の自由,契約の相手方選択の自由との関係がさらに問題となったのです。

 最高裁判所は,「裁判所の判断」のところで紹介したように,本件決議のうち,「団地建物所有権者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない」との判断を示しました。個人は誰からの干渉も受けずに自由に契約を締結することができるという「契約自由の原則」に照らすと,最高裁のこの判断は一般論としては正しいと言えます。ただ,マンションにおける個別住戸への電力の供給は,共用部分に設置された受変電設備,配電設備等を経由して行うしかないものですから,そうした電力供給の特殊性を考慮するならば,「区分所有建物にあって,電力会社から受ける電力は全体共用部分,各棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから,電力の供給元の選択においても,共同利用関係による制約を当然受けるもの」とする1審判決の判示にも説得力があったように思われます。

コメント

 1審,控訴審の判断を覆した今回の最高裁判決は,新聞報道などでも大きく取り上げられました。“マンション電力契約変更,544分の2の『抵抗』は適法”(日経),“マンションの全戸電気解約「義務づけられない」最高裁”(朝日)といった見出しからもわかるように,かなりのインパクトをもって受けとめられたようです。2016年4月からは電力小売自由化が始まり,一般の家庭でも,広く電力の売主を選択できるようになりました。マンションでも,管理組合が一括受電契約を結んでいなければ,区分所有者は電力の売主を選択することができます。そうした状況があるところに,今回,こうした最高裁の判断が示されたため,今後,マンションにおいて一括高圧受電方式に変更することは非常にハードルが高くなったと言えます。

夏季休業のお知らせ

 

当事務所は,今年は8月15日(木)から20日(火)までを夏季休業とさせていただきます。

メールでのご連絡,お問い合わせについても,21日水曜日からの対応となりますことをご了承ください。ご不便をおかけしますが,よろしくお願い致します。

8月10日(土) 「シンポジウム えん罪『富山氷見事件』を振り返る」のご案内

富山・氷見事件という“えん罪”事件を題材としたシンポジウムが埼玉弁護士会の主催で行われます。“えん罪”というと,被疑者,被告人の人権が軽んじられ,科学的な捜査手法も未発達で自白偏重の捜査が行われていた過去のものと思われる方も多いかもしれませんが,この富山・氷見事件は2002年に発生した比較的最近の事件です。なぜ,被疑者とされた方は“自白”をしてしまったのか,裁判所はなぜえん罪を見抜けなかったのか,弁護人の役割は果たせたのか,日本の警察捜査,刑事司法が抱える問題をこの事件は浮き彫りにします。当日は,このえん罪事件の被害者である柳原浩氏らをパネリストに迎えたパネルディスカッションなどを行います。お盆休み前の土曜日ですが,ぜひ,多くの皆さまに参加いただきたいと思います。

【日 時】8月10日土曜日 午後1時開場,午後1時30分開演

【会 場】コルソホール(浦和コルソ7階)※浦和駅西口徒歩1分

     問合せ先:埼玉弁護士会 ☎048-863-5255

 

 

 

 

【注目判例】 バドミントンのダブルス競技中,ペアのラケットで眼を負傷した被害者の損害賠償請求が認められた事案 : 東京高等裁判所H30.9.12判決

事案の概要

 X,Yの二人は,事故の1年ほど前から同じバトミントン教室に通っていた女性です(Xは40代後半)。事故があった日,XとYはペアを組み,対戦相手(A,B)とダブルスの試合をしていました。Yが相手コートから飛んできたシャトルをバックハンドで打ち返そうとラケットを振った際,そのフレームがXの左目に当たってしまい,Xは通院をして治療を受けましたが,外傷性散瞳(瞳孔が大きくなったまま,光に対する調整がきかなくなる障害)の後遺症が残ってしまいました。Xは,この事故についてYに過失があると主張し,1500万円余りの損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
 Yは,Xに損害を与えることは予見できなかったと過失を否定し,さらに,仮に過失が認められるとしても,バトミントン競技においては一定の頻度で事故が発生するのであり,競技者はそうした事故発生のリスクを引き受けて競技に参加しているから,本件のような事故の場合,ペアを組んだパートナーが負傷しても違法性が阻却されると主張しました。
 1審・東京地方裁判所(平成30年2月9日判決)は,Yの過失を認定し,さらに,違法性の阻却を求めるYの主張を退ける一方,本件事故により発生した損害の全部をYに負わせるのは損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するとして,過失相殺の規定を類推適用して,YはXに生じた損害の6割を負担するのが相当であるとし,Xの請求を789万3244円の支払いを求める限度で認めました。
 今回は,Yがこの1審判決を不服として控訴し,Xも附帯控訴をした事案について,東京高等裁判所が示した判断を紹介してみたいと思います。

裁判所の判断

 

○ 本件事故についてYに過失があると言えるか
 Yの過失を肯定。
 相手コートの「Aが打ったシャトルは,YよりもXに近く,Xにおいて十分対応可能な位置であり,かつ,前衛であるXが打ち返すべき位置に飛来したものであ」るから,「Yは,自らが動き出す時点で,Xがシャトルを打つために動く可能性があることを予見できたというべき」である。Yは,Xの動静を把握することができなかったと主張するが,「Yは,後衛においてXとほぼ前後に並ぶ位置にいたのであるから,前衛の位置にいたXの動静を把握することができた」といえる。そのような状況の下において,Yが相手コートから飛来した「シャトルを打ちに行くのであれば,前方にいるXの動静に注意し,自身が持っているラケットがXに衝突しないよう配慮しながら競技を行う注意義務を負うものというべきであ」り,「前方にいるXの動きを把握した上で,シャトルを打ち返すことを止めるか,あるいは,少なくともラケットがXに接触しないようにラケットを相手コート側に向けて振ることにより,本件事故を回避することができた」と言えるから,Yには過失がある。

○ 本件事故につきYの行為の違法性阻却を認めるべきか
 Yの違法性阻却を否定。
 バトミントン協会の競技規則に「著しく反しないプレーである限り違法性が阻却されると解すると,ダブルスにおいてペアの一方によるシャトルを打ち返す際のプレーにより他方を負傷させた事故についてはどのような態様であっても違法性が否定されることになる」が,「バドミントン競技が一定の危険性を伴う競技であることを考慮しても,上記のようなルールに著しく反しない行為である以上,どのような態様によるものであってもそれにより生じた危険を競技者が全て引受けているとはいえないことは明らか」であり,違法性が阻却されると解することは相当ではない

○ Xにも過失があったとしてYの過失相殺の主張を認めるべきか
 過失相殺を否定
 「本件事故の発生についてXに過失はなく,損害の公平な分担の見地から,本件事故により生じたXの損害の一部を同人に負担させるべき事情が同人側に存在するとも認められないから,過失相殺ないし過失相殺類似の法理により本件事故により生じたXの損害の一部を同人に負担させる理由はない」

解 説

 

◇ スポーツにおける事故と損害賠償
 故意,または過失によって人を傷つけてしまうと,民法の不法行為として損害賠償責任を負うことになります(709条)。スポーツをしている時に相手にケガをさせてしまった場合にも,この不法行為責任を負うことになるのでしょうか? ちょうど一年前に起きた日大アメフト部員による試合中の悪質タックル事件のように,わざと(故意に)相手チームの選手にケガを負わせた場合には,不法行為が成立することは当然ですが,ケガをさせるつもりはなかったが,接触プレーなどにより,結果としてケガを負わせてしまったケースについては,どのように考えるべきでしょうか。
 ボクシングなどの格闘技,柔道・剣道などの武道については,相手とのコンタクトによる一定の危険はつきものであり,その競技に参加する者は,そのリスクがあることを承知して参加しているのであるから,ルールにしたがったプレーをしている限り,その中で他人に損害を与えたとしても(ケガを負わせたりしても),損害賠償責任を免れるという見解が以前から有力に主張されてきました。「危険の引き受けの法理」,「社会的相当性説」,「正当行為説」などが代表的な見解です。
 しかし,裁判例をみてみると,ルールに従った行動が取られていたことを理由に過失を否定したものは必ずしも多くありません(ママさんバレーボール中の事故に関する事案で過失を否定したものとして東京地判S45.2.27)。むしろ,大学ラグビーの試合中,ラフプレーで被害者が重傷を負った事案について,「過失の有無は,単に競技上の規則に違反したか否かではなく,注意義務違反の有無という観点から判断すべきであり,競技規則は注意義務の内容を定めるに当たっての一つの指針となるにとどまり,規則に違反していないから過失はないとの主張は採用することができない」との判断を示した下級審判例(東京地判H26.12.3)に代表されるように,過失の成否は,当事者のそのスポーツに関する技量や経験,具体的な事故発生状況などを踏まえて,個別の事案ごとに判断されていると一般的には言えると思います。
 また,違法性の阻却についても,当該スポーツのルールに従っていたというだけでこれを認めるのではなく,「当該加害行為の態様,方法が競技規則に照らして相当なものであるか,競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるか,加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断すべき」とされている例が多いと言えます(東京地判H28.12.26)。

◇ バトミントンをプレーする際の「過失」
 それでは,本件の場合,Yには過失があったと言えるのでしょうか。
 過失の成否を判断するには,その前提として,事故の発生状況の事実認定が重要になります。
 本件の場合,前衛のXがショートサービスライン前後付近,センターラインからやや右寄りの位置,後衛のYがXの約3メートル後方,センターライン付近の位置にいるときに(トップ&バックの陣形),対戦相手のAが打ったシャトルが山なりにX・Yペア側のコートの左側,ショートサービスライン付近に飛んできたこと,このシャトルをYが左前方に移動して,右手のバックハンドで打ち返した時に事故が起きたことについては争いがありません。しかし,①事故直前の二人の動き(Yは,Xはラケットを構えたままシャトルを打ち返しに行く動作は一切とらなかったと主張。これに対し,Xは,シャトルを打ち返そうという体勢をとり,ラケットを振った記憶はないが,打つために足を動かして手を伸ばそうとしていたと主張),②Xがシャトルを打ちに行く際,「打つよ」と声かけをしたかどうかの2点については,X,Yの言い分に食い違いがあり,これらの点の事実認定が過失の成否に影響がありました。
 判決(1審判決の事実認定を基本的には踏襲)は,①については,Xには相手コートから飛んできた「シャトルを打ち返す動作を選択することを躊躇させるような事情が認められないにもかかわらず,1年を超えるバドミントン経験を有するXが十分対応可能な位置に飛来したシャトルに対して全く反応せず,腰を落として構えるといったこともせずに立ったままで,かつ,ラケットを持つ右手を構えることもなく下に向けたまましばらく動くことがなかったということはおよそ考え難い」として,Xがシャトルを打ち返そうとする動作を一切取らなかったとするYの主張をしりぞけました(ただ,ラケットをバックハンドに構えるなどシャトルを打ち返す直前の段階には至ってはいなかったと認定)。また,②については,裁判になってからのこの点についてのYの主張・供述には変遷があり,変遷した理由についても合理的な説明がされていないとして,Yの声かけはなかったと認定しました。
 判決は,このような事実認定を前提に,Yは「前方にいるXの動きを把握した上で,シャトルを打ち返すことを止めるか,あるいは,少なくともラケットがXに接触しないようにラケットを相手コート側に向けて振ることにより,本件事故を回避することができた」としてその過失を認めました。しかし,バトミントン教室に通い始めて1年余り,技量も競技経験も乏しいYに,Xの動静をそこまで的確に予見し得たと評価してしまって構わないのか,議論のあるところだと思います。

◇ 違法性の阻却
 判決は,Yの過失を認めただけでなく,Yの違法性阻却の主張も退けました。
 前述の通り,違法性の阻却について過去の裁判例は,「当該加害行為の態様,方法が競技規則に照らして相当なものであるか,競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるか,加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断」するという判断枠組みを示していました(東京地判H28.12.26など)。
 そこで,Yは,「プレーがルールに著しく違反することがなく,かつ,通常予測され許容された動作に起因するものであ」れば違法性は阻却されると主張したのですが,判決は,「バドミントン競技の場合,上記のボクシング等のように一方の競技者が他の競技者の身体に対して一定の有形力を行使することが競技の内容の一部を構成するものとは異なるから,バドミントン競技の競技者が,同競技に伴う他の競技者の故意又は過失により発生する一定の危険を当然に引き受けてこれに参加しているとまではいえない」として,Yの違法性阻却の主張を退けました。
 確かに,バトミントンのようなネットを挟んで対戦相手と対峙するという競技の場合,対戦相手の身体と直接接触することによってケガをするということはほとんど考えられません。しかし,“ネット型競技”であっても,ラケットやシャトル,ボールといった道具を使うので,道具によって他のプレーヤーにケガをさせてしまうことは当然起こり得ます。一定の有形力を行使することが競技の内容の一部を構成しているかどうかという基準だけで,「危険の引き受けの法理」の適用を排除することは,必ずしも説得力があるとは言えません。
 判決は,ネット型競技で起きた事故について,加害者の違法性が阻却される場面があることを一般的に否定している訳ではありませんが,コンタクトプレーがある競技と比較して,かなりその場面を限定しているように思われ,果たしてそれで妥当と言ってよいのか,やはり議論のあるところだと思います。

◇ 過失相殺について
 東京高裁判決を読んで最も驚いたのは,Yの過失相殺の主張までを退け,1審判決を変更して,Xに生じた損害全ての賠償をYに命じていることです。
 対戦相手がコートに打ち込んできたシャトルを打ち返すことができなければ,対戦相手に得点が入ってしまうのですから,シャトルを打ち返すためにラケットを振るということは,プレーヤーとしては本能的な行動だと言えます。また,ラケットスポーツのダブルス競技において,プレーヤーの陣形が前後になった場合,前衛としては,後衛がラケットやシャトル(ボール)を当ててこないとの信頼を有していることまでは理解できますが,シャトル(ボール)が飛んできた位置によっては,後衛のラケットや後衛が打ったシャトル,ボールなどが前衛に当たる危険は一定程度あるのですから,前衛としても,そうしたリスクを念頭において事故を回避する義務があるはずです。
 1審判決は,「Yは故意をもってXを負傷させたものではなく,飛来したシャトルを打ち返すためにラケットを振るという競技の流れの中で本件事故が発生したものと評価できることに鑑みると,本件事故により発生した損害の全部を加害者であるYに負担させるのは,損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するといわざるを得ない」として過失相殺の規定の類推適用を認め,Yが負担すべき損害の範囲を6割に限定していました。6割という割合の当否は別として,やはり本事案においては,一定の過失相殺が認められて然るべきではないかと考えます。

コメント

1審判決は,「一定の危険を伴うスポーツの競技中に事故が発生した場合に常に過失責任が問われることになれば,国民のスポーツに親しむ権利を萎縮させ,スポーツ基本法の理念にもとる結果になるから,本件については違法性が阻却されるべき」とYが主張したのに対し,「本件のように結果回避可能性が認められる場合についてまで,スポーツ競技中の事故であるからといって過失責任を否定することは,スポーツの危険性を高めることにつながりかねず,国民が安心してスポーツに親しむことを阻害する可能性がある」としてYの違法性阻却の主張を退けました。生涯スポーツの振興が国の施策として進められていますが,スポーツ事故被害者の救済を図る公的な方策はほとんど講じられていません。今回の判決のように加害者の責任を厳しく問う判断が増えるとすれば,競技を行う前に賠償責任保険に加入するなど個人でのリスクマネジメントが大切な時代になるかもしれません。

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