【注目判例】 マンション管理組合総会における高圧一括受電方式導入決議の効力が否定された事案:最高裁H31.3.5判決

事案の概要

 〇〇マンション(区分所有建物4棟,総戸数544戸。「建物の区分所有等に関する法律」は,一団地内に数棟の建物がある場合,“団地”,“団地管理組合法人”と呼ぶのですが〔65条以下〕,ここでは便宜上,“マンション”,“管理組合法人”としておきます。)では,従来,各区分所有者は,各自の専有部分において使用する電力の供給契約をA電力会社との間で個別に締結していました。電力の供給は,マンションの共用部分に設置された配電設備を通じて行われていました。
 マンションの管理組合法人(Z)は,区分所有者の専有部分の電気料金の削減を図るため,平成26年8月の通常総会において,Zが一括してA社との間で高圧電力の供給契約を締結し,各区分所有者はZとの間で各自の専有部分において使用する電力の供給契約を締結するいわゆる一括高圧受電方式へと変更する旨の特別多数決議を行いました(以下,本件決議と言います)。その後,高圧受電方式に変更するためには,A社と個別契約を締結している区分所有者全員がその解約手続を行う必要があったため,平成27年1月の臨時総会で,高圧受電方式以外の方法により電力の供給を受けてはならないことを規定する「電気供給規則」を新たに制定する旨の特別多数決議を行いました(以下,この決議に従って制定された規則を本件細則と言います)。Zは,これらの決議及び本件細則に基づき,区分所有者全員に対し,A社との個別契約の解約申し入れに係る書面の提出を求めたのですが,Yら2名はこの書面をZに提出せず,また,A社に対しても個別契約の解約申入れをしませんでした。この結果,〇〇マンションでは高圧受電方式への変更ができなくなり,Zは,平成28年8月の総会で,高圧受電方式の導入を保留する特別多数決議を行うことになりました。
 このような状況において,Zが設置した専門委員会の一員として高圧受電方式の導入に向けて奔走したXは,A社との個別契約の解約申入れをすべきとする総会決議,本件細則に基づく義務にYらが違反したため,高圧受電方式への変更が実現せず,その結果,専有部分の電気料金が削減されないという不利益・損害を被ったと主張し,Yらを被告として損害賠償を求める訴えを提起しました。Yらは,電力などライフラインの供給元の選択は,専有部分の区分所有者が自由に決することができる事項であって,本件決議は,区分所有権の本質的事項にかかわるものとして法的拘束力がない等と反論しました。
 1審の札幌地方裁判所は,Yらが主張したライフライン供給元の選択の自由について,「区分所有建物にあって,電力会社から受ける電力は全体共用部分,各棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから,電力の供給元の選択においても,共同利用関係による制約を当然受けるものである」と判示し,本件決議等により設定された義務にYが違反したことによってXには高圧受電方式による低廉な電気料金という利益を享受できなくなるという損害が生じているとして,Xの請求を一部認容しました(H29.5.24判決)。控訴審においても第1審の判決が維持されたため(札幌高裁H29.11.9判決),Yらが最高裁に上告したというのが本件の経過となります。今回は,Yらの上告について最高裁が示した判断を紹介します。

裁判所の判断

 

○ 本件決議は「共用部分の変更又はその管理に関する事項」を決するものとして効力を認めてよいか
 本件決議の効力を否定。
「本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの,本件決議のうち,団地建物所有権者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。したがって,本件決議の上記部分は,法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない」

○ 本件細則は「建物所有権者相互間の事項」を定めたものとして効力を認めてよいか
 本件細則について「建物所有権者相互間の事項」を定めた規約としての効力を否定
「本件細則が,本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても,その部分は,法30条1項の『建物所有者間相互間の事項』を定めたものではなく,同項の規約として効力を有するものとはいえない」

解 説

 

◇ マンション共用部分の「管理」「変更」
 民法上,管理行為(広義)とは,財産を現状において維持し(=保存行為),また,財産の性質を変更しない範囲で利用改良を目的とする行為(=狭義の管理行為)とされています。マンション共用部分の管理として考えてみると,共用部分の清掃,損壊部分の修繕などは保存行為,共用部分の駐車場を貸して賃料収入を得ることは利用行為,共用部分に設置された電灯をLEDに変更するような行為は改良行為ということになります。以上の管理行為(広義)に対して,財産の性質・形状の一方または両方を変えることを変更行為と言います。マンション共用部分で考えてみると,エレベーターの設置や集会室の増築といった行為がこれに当たることになります。

◇ 共用部分の管理,変更に関する区分所有法の規定
 「建物の区分所有等に関する法律」(以下,区分所有法と言います。)は,前記のようなマンション共用部分の管理,変更について,どのような規定を置いているかを確認しておきます。

第17条(共用部分の変更)
 1 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は,区分所有者及び議決権
   の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。ただし,この区分所有者の定数は,規約でその過
   半数まで減ずることができる。
 2 前項の場合において,共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは,その専有部
    分の所有者の承諾を得なければならない。
第18条(共用部分の管理)
 1 共用部分の管理に関する事項は,前条の場合を除いて,集会の決議で決する。ただし,保存行為は,各
    共有者がすることができる。
 2 前項の規定は,規約で別段の定めをすることを妨げない。
 3 前条第2項の規定は,第1項本文の場合に準用する。
 4 共用部分につき損害保険契約をすることは,共用部分の管理に関する事項とみなす。

 
 まず,管理行為のうち“保存行為”については,集会の決議は必要とせず,各共有者(区分所有者)が単独で判断して行うことができるというとになります(第18条1項但書)。この場合,区分所有法は,「各共有者は,規約に別段の定めがない限りその持分に応じて,共用部分の負担に任じ」と規定しているため(第19条),保存行為を行った共有者からの費用を求償されると,規約に別段の定めが置かれていなければ,他の共有者は応分の費用負担をしなければならないということになります。勝手に高額な費用をかけて保存行為をし,後からその負担を求めるといったことを防ぐため,規約に別段の定めが置かれていることが多いと思います。“利用行為”,“改良行為”については,第18条1項本文により,集会の決議によって決せられることになります。
 次に,変更行為については,変更が共用部分の形状または効用の著しい変更になる場合と,それ以外の軽微な変更にとどまる場合とで,手続が区別されています。前者の著しい変更の場合には,4分の3以上の多数による集会の特別決議で決めなければならないのに対し(第17条1項本文。但し,この区分所有者の定数については規約で過半数まで減ずることは可能〔同項但書〕),前者の軽微な変更については,過半数による普通決議で決めることができるとされています(第18条1項の「共用部分の管理」に軽微な変更が含まれると解釈されています)。形状・効用の“著しい変更”であるか否かによって決議要件が変わってくるので,その区別が重要になるのですが,その判断は実際には簡単ではありません。マンション標準管理規約を定める国交省のコメントをみていくと,耐震工事でも基本構造部分への加工の程度が小さいものは普通決議でよいとされ,また,鉄部塗装,外壁補修,屋上防水,給排水管の更新,TV共聴設備等の工事も普通決議で足りると判断されているようです。
 共用部分の変更,あるいは管理により,専有部分の使用に影響を与えることがあり得ます。区分所有法は,それが“専用部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき”は,その専有部分の所有者の承諾を得なければならないと規定して調整を図っています。“特別の影響”とは,「当該変更行為の必要性,有用性と当該区分所有者の受ける不利益とを比較衡量して,受忍すべき範囲を超える程度の不利益」と解されていて,その程度に至らない軽微な影響にとどまるときには承諾は不要とされています。

◇ 電力供給方式の変更と共用部分の管理
 建物全体の電力量が50kw以上の中規模・大規模マンションでは,高圧電力をそのまま敷地内に置かれた受変電設備に引き込み,低圧電力に変換してから配電設備を使って各住戸に供給される仕組みとなっています。電力自由化の前に建設された中規模・大規模マンションにおいては,受変電設備,配電設備,各住戸のブレーカー,メーターといった設備はすべて電力会社が所有,管理していたのですが,2005年の電力自由化以降,中規模・大規模マンションにおいては,管理組合が電力会社から一括して高圧電力を買い取り,管理組合が所有・管理する受変電設備を使ってこれを低電圧に変圧し,各住戸に対して低圧電力を販売することが可能になりました(一括高圧受電方式)。本件の〇〇マンションも,この一括高圧受電方式の導入を目指して,本件決議等を行ったことになります。
 受電方式の変更は,マンション敷地内にある受変電設備,配電設備の所有・管理形態の変更を伴いますから,これが共用部分の変更(もしくは管理)に関する事項として,総会の決議が必要となることは明らかです。しかし,本件決議や決議に基づいて作られた本件細則には,各区分所有者に対し,A社との間で結んでいる電気供給契約の解約申入れをすることを義務づける内容まで含まれるため,導入に反対する区分所有者の契約の自由,契約の相手方選択の自由との関係がさらに問題となったのです。

 最高裁判所は,「裁判所の判断」のところで紹介したように,本件決議のうち,「団地建物所有権者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない」との判断を示しました。個人は誰からの干渉も受けずに自由に契約を締結することができるという「契約自由の原則」に照らすと,最高裁のこの判断は一般論としては正しいと言えます。ただ,マンションにおける個別住戸への電力の供給は,共用部分に設置された受変電設備,配電設備等を経由して行うしかないものですから,そうした電力供給の特殊性を考慮するならば,「区分所有建物にあって,電力会社から受ける電力は全体共用部分,各棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから,電力の供給元の選択においても,共同利用関係による制約を当然受けるもの」とする1審判決の判示にも説得力があったように思われます。

コメント

 1審,控訴審の判断を覆した今回の最高裁判決は,新聞報道などでも大きく取り上げられました。“マンション電力契約変更,544分の2の『抵抗』は適法”(日経),“マンションの全戸電気解約「義務づけられない」最高裁”(朝日)といった見出しからもわかるように,かなりのインパクトをもって受けとめられたようです。2016年4月からは電力小売自由化が始まり,一般の家庭でも,広く電力の売主を選択できるようになりました。マンションでも,管理組合が一括受電契約を結んでいなければ,区分所有者は電力の売主を選択することができます。そうした状況があるところに,今回,こうした最高裁の判断が示されたため,今後,マンションにおいて一括高圧受電方式に変更することは非常にハードルが高くなったと言えます。