2 慰謝料

夫との離婚を考えています。離婚をする際,慰謝料が支払われることがあると思います。離婚をすれば慰謝料は必ず支払ってもらえるものなのでしょうか? それとも離婚をしても慰謝料が支払われないということもあるのでしょうか?

離婚にともなう慰謝料について

他人の違法な行為によって被る損害は,大別すると財産的損害と精神的損害に分けることができます。このうち,精神的損害に対する償いとして支払われる金銭(賠償)が慰謝料です。
精神的損害は,違法な行為自体によって受けた精神的苦痛だけでなく,ケガを負った場合はその治療を余儀なくされることによる苦痛,行為後の加害者の不誠実な対応による苦痛なども含まれます。

離婚と慰謝料

離婚をするとき必ず慰謝料が支払われる,というものではありません。相手方配偶者に違法な行為があったときにはじめて慰謝料の支払いを求めることができます。

離婚時に問題となる違法行為で典型的なものは,不貞行為(浮気),家庭内での暴力(DV),言葉の暴力(モラハラ)などですが,このほかにも,生活費を入れない,理由もないのに同居を拒む,セックスを拒むといったことも違法と評価されることがあります。

この離婚時に問題となる慰謝料ですが,もう少し詳しく説明すると,離婚の原因となった違法行為それ自体についての慰謝料(離婚原因慰謝料)と,その結果として婚姻関係が維持できなくなり望まない離婚をしなければならなくなったことについての慰謝料(離婚慰謝料)とに分けられます。夫が不貞行為(浮気)をした場面を考えていただくと,それによって離婚までには至らなくても夫と不貞行為の相手方に対して慰謝料を請求することはできるので,離婚原因慰謝料と離婚慰謝料とは理屈では別に観念できるという意味です。
もっとも,離婚のご相談を受けて相手方に慰謝料を請求する多くの場面では,この2つの慰謝料を一体として請求しているということになります。

慰謝料の金額

離婚に際して支払われる慰謝料の金額には明確な基準というものはありません。
裁判では,離婚するまでの婚姻期間の長さ,慰謝料の支払義務者の資力や社会的地位,離婚原因となった違法行為の内容とその責任の程度など,様々な要因を総合的に考慮して金額が決められています。
ただ,婚姻期間が長いほうが,資力・社会的地位が高いほうが慰謝料が高くなる傾向があります。離婚原因となる違法行為についても,回数が多く内容も悪質となれば,そのことは慰謝料の金額にも反映されることになります。

慰謝料の“相場”は100~300万などと言われているようです。私自身が取り扱った案件で,明確に慰謝料として500万円を超える金額を得て(あるいは支払って)解決したという経験はほとんどありません。
もっとも,離婚時には,後述の財産分与も問題となるため,慰謝料,財産分与を区別せずに金銭の授受を行うこともあります。実質的には相場以上の慰謝料の支払いをしていると言えるケースもあります。

慰謝料を請求するための準備

慰謝料を請求するには,相手方配偶者の違法行為を証明しなければなりません。不貞行為(浮気)であれば,相手とやり取りしているメールや手紙,ホテルの領収書・クレジット利用明細,浮気現場の写真などが必要になります。

本人がいったんは不貞行為を認めていても,慰謝料を請求する段になると前言を翻すこともありますので,不貞行為の事実を認める文書を作成させたり,録音を残しておくという備えも必要です。

DVを原因とする慰謝料を請求するには,治療を受けた医療機関のカルテ・診断書,負傷した部位の写真,暴力によって壊されたものがあればその写真,DVを受けたときの状況を綴った日記などが証拠になります。

慰謝料請求の方法

当事者間の話し合いで解決できれば負担が少なくてすみます。
もっとも,慰謝料を支払う約束だけして支払いは後日ということであれば合意をした内容を書面化しておくことが望ましいでしょう。合意を公正証書にしておけば,期日までに支払いがなかった場合には裁判を起こさずとも相手方の財産を差し押さえて回収をはかることができます。支払いを行う側にとっても,どの事実についていくらの慰謝料の支払いをしたのかを明確にできるので,合意内容を書面化しておくことは大切です。

当事者間の話し合いでは解決がつかない場合には,調停,訴訟を起こして請求することになります。
離婚についても話し合いがつかず,離婚と慰謝料の支払いとを一緒に求める場合には,家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停を申し立て,その中で慰謝料の支払いも要求していくことになります。これに対し,離婚については協議離婚が成立していて元配偶者に慰謝料の支払いだけを求める場合,あるいは,離婚はせずに慰謝料の支払いだけを求める場合については,家庭裁判所に慰謝料請求調停を申し立てることもできますし,簡易裁判所に同様の申立てをすることも可能です。

なお,不貞行為を原因とする慰謝料請求が問題になるケースでは,配偶者に加えて不倫相手に対しても同時に請求を行うということがしばしばあります。1つの事件として家庭裁判所に申し立てをすると,裁判所の取り扱いによっては受け付けてくれず,別の事件としての申立てを求められることがあります。
管轄,利害関係人の参加申出などの手続が必要になることもありますので,手にあまると感じられたら,弁護士に相談するとよいでしょう。

慰謝料請求の時効

不法行為による損害賠償の請求権は,「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する。」と規定されています(民法724条)。離婚時に問題となる慰謝料請求権も,不法行為による損害賠償請求権としての性格を有しているため,3年で時効消滅することになります

この3年をどこからカウントするかですが,先ほど説明した離婚原因慰謝料については,不法行為の時効の原則によると,離婚の原因となった違法行為が行われたことを知った時から進行することになります。そうなると,例えば,離婚届の提出する3年以上前の不貞行為については慰謝料を請求することはもはやできないことになりそうです。
しかし,不法行為を不貞行為だけではなく,それによって婚姻関係が破綻をして離婚に至ったこととして捉えると,離婚届を提出するまで不法行為は続いているとも言えるため,離婚後も3年間は不貞を含む慰謝料を請求できると考えてよいのです(離婚慰謝料)。

さらに付け加えると,民法159条は,「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は,時効は完成しない」としているため,3年以上前の配偶者の違法行為であっても,離婚から6ヵ月を経過するまでは慰謝料の請求をすることは理屈では可能ということになります。もちろん,その場合,例えば不貞行為の相手に対する請求権は時効消滅しているでしょうし,(元)配偶者に対する請求についても,不貞の事実を知りながらこれを赦していたような場合には,慰謝料の金額はかなり減額されることになるでしょう。