交通事故と損害賠償請求

 交通事故に関する損害賠償請求の法的根拠

 交通事故の被害に遭った場合には,加害者に対して,民事上の責任追求として損害賠償の請求をすることができます。この交通事故の加害者が負う民事上の賠償責任の法的根拠としては,大別すると「不法行為責任」と「運行供用者責任」の2つがあります。

♦ 不法行為責任
 「不法行為責任」とは,故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害した者に対して課される責任です。民法第709条がこの不法行為責任を定めています。

民法第709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

 交通事故も他人の生命・身体,財産といった法的に保護される利益を損なう行為ですから不法行為となり,加害者は,この規定に基づいて損害賠償責任を負うことになります。
 また,民法は,業務の執行中に従業員が第三者に損害を与えた場合には,その使用者も損害賠償の責任を負うと定めています(第715条 使用者責任)。さらに,未成年者であったり,精神障害があるなどして自らは法的責任を負わない者(=責任無能力者)が加害者となった場合について,その責任無能力者の監督義務者が損害賠償の責任を負う場合があるとしています(第714条 監督義務者の責任)。使用者責任も監督義務者の責任も,責任の性質としては不法行為責任の一種ということになります。
 これら不法行為に基づく損害賠償責任を追求するには,加害者に故意または過失があったことを立証する必要があります(使用者責任の場合には,従業員に故意・過失があったことを立証しなければなりませんし,監督義務者の責任の場合には,監督義務者が監督義務を尽くしていなかったことを立証しなければなりません)。交通事故の場合,加害者の過失の立証は,ケースによっては非常に難しいことがあります。

♦ 運行供用者責任
 交通事故のうち,人身事故の場合には,民法の不法行為責任とは別に「自動車損害賠償保障法」(自賠法)という特別法によって定められた「運行供用者責任」を追求することによって加害者に損害の賠償を求めることが通例です。

自動車損害賠償保障法 第3条
「自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし,自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと,被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは,この限りでない。」

不法行為責任と運行供用者責任の違い
 この自賠法の「運行供用者責任」と民法の「不法行為責任」の違いは,おもに3つあります。

立証の負担の軽減
 まず,運行供用者責任は,不法行為責任と比べると,事故の被害者側の立証の負担が軽減されています。
不法行為責任については,すでに説明したように,事故の加害者に過失があったことを被害者側が立証しなければなりません。これに対し,運行供用者責任の場合は,被害者救済の観点から,被害者側で加害者の過失を立証する必要はなく,逆に,賠償責任を免れようとする加害者の側で,過失がなかったことを立証しなければならないとされています。

賠償責任を負担する者の範囲
 2つめの違いは,運行供用者責任は,不法行為責任と比べると,賠償責任を負担する者の範囲が拡大されていることです。
不法行為責任の場合は,(使用者責任や監督義務者の責任を追求できる場合などの例外を除いては)事故を起こした加害者本人だけが責任を負担することになります。
これに対し,運行供用者責任の場合には,「自己のために自動車の運行の用に供する者」(=運行供用者)が責任を負担することになっています。この運行供用者とは,わかりやすく言うと,事故を起こした自動車の運行をコントロールできる立場にあって,その自動車を運行させることによって利益を得ている人を指します。自動車の所有者,自動車を人に貸した人,レンタカーの貸主,盗難車で所有者に過失がある場合,子ども名義にしているがガソリン代や保険料は親が負担している場合などが運行供用者にあたります。

自賠責保険による賠償
 運行供用者のうち,自賠法第1条3号の「保有者」に該当する者についての運行供用者責任が生じる場合には,この加害車両にかけられた自賠責保険から保険金の支払いが行われます。運行供用者責任が自賠責保険と連動することにより,事故の加害者に賠償金を支払う資力がない場合であっても,自賠責保険による最低限の保障が行われることになります。
 ※ 加害車両が自賠責保険に加入していなかった場合(無保険車)については,政府の保障事業により,自賠責保険と同様の保障があります(自賠法第72条1項)。

《設例》
子どもが,自宅前の道路で遊んでいたところ,トラックへの荷積み作業をしていたフォークリフトにぶつけられてしまい,後遺症が残るようなケガをしてしまいました。フォークリフトを運転していたのは自営で倉庫業をしている年配の方で,賠償金を支払うだけの資力がないと言っています。フォークリフトにはナンバー・プレートはつけられておらず,自賠責保険にも加入していなかったようです。何か賠償を受ける方法はないでしょうか。
 

もっぱら構内作業に使い,公道を走行することを予定していないフォークリフトについては,ナンバー・プレートがなく,自賠責保険にも入っていないということがあります(構内でのみ使用するフォークリフトについては,自賠責保険への加入は強制されていません)。しかし,フォークリフトは「自動車」であり,その運行によって事故が起きているのですから,本来であればその保有者に運行供用者責任が生じ,自賠責保険によって最低限の保障が受けられたはずです。自賠責保険への加入がなく無保険車であったということであれば,政府の保障事業によって保障を受けることになります。

2017年12月17日 | カテゴリー : 交通事故 | 投稿者 : 事務局