ⅹ 遺言の有効性が争われる場合

遺言書が見つかっても,遺言に要求される方式に適合していると言えるかが問題とされたり,自筆証書遺言について本人の筆跡であるかどうかが問題とされたり,遺言書が作成された時点における遺言者の意思能力(遺言能力)が問題とされたりして,その有効性が争われる場合があります。
遺言の有効性は,最終的には,利害関係のある人が遺言無効確認請求訴訟を提起し,裁判で決着が図られることになります。

遺言書の方式適合が争われるケース

他人の添え手を受けて作成された自筆証書遺言

“添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できる場合”という非常に限定されたケースについてのみ自筆と認められて有効だが,そうでなければ無効(最高裁S62.10.8判決)

添付された不動産目録がタイプ印字されている自筆証書遺言

“…同遺言書は,右目録と対比することにより,はじめて控訴人に相続させるべき目的物を特定し得るものであることがその記載自体から明らか”であり,タイプ印字された不動産目録は遺言書中の最も重要な部分を構成するので,民法968条1項の全文の自書の要件を充足せずに無効(東京高裁S59.3.22判決)

拇印が押された自筆証書遺言

自筆証書遺言の押印は,“遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨,朱肉等をつけて押捺することをもって足りる”として有効(最高裁H1.2.16判決)

「花押」(署名の代わりに使われる記号・符号で,手書のサインのようなもの)が押された自筆証書遺言

“文書の作成を花押によって完結するという慣行や意識があるとは認めがたい”ので遺言書は無効(最高裁H28.6.3判決)。

遺言書作成時の遺言能力が争われるケース

遺言者が認知症を発症していたことなどを理由に遺言書の有効性が争われるケースがあります。
認知症を発症している方であっても,遺言能力に欠けることはないとされることも多いのですが,民法は遺言能力について明確な定義を定めていないため,その存否をめぐって裁判となるケースも珍しくありません。

裁判所は,精神疾患・障害の内容・程度といった遺言者の精神医学上の精神能力の状態を尊重しつつも,遺言者の年齢,健康状態,遺言時前後の言動,遺言の作成過程,日頃の遺言についての意向,受贈者との関係,遺言の内容の難易,遺言内容の合理性などそれ以外の要素も総合的に考慮して遺言能力の有無を判断しています。

遺言の有効性(あるいは無効)を立証するには,どの程度の資料が必要となるかについては,慎重な検討が必要になります。
弁護士に相談するときにも,予め以上のような事情について事実関係を整理しておいていただくとよいでしょう。

2017年11月9日 | カテゴリー : 相続、遺言 | 投稿者 : kawaguchi-saiwai