被相続人が遺言書を残して亡くなった場合,遺言に書かれた内容を実現していくことを遺言の執行といいます。
どのように手続を進めていくことになるのか,流れを説明します。
封印されている遺言書を見つけた場合
封印された遺言書を見つけた場合には,それを開封してはいけません。
民法では,「遺言書を発見し,相続が開始する場合は,裁判所に遺言書を提出し検認の請求をしなくてはならない」と定められています(1004条)。この検認作業を経ないで遺言を執行したり,家庭裁判所以外で遺言書を開封すると5万円以下の過料の制裁を受けることがありますので注意が必要です(1005条)。
遺言書の「検認」
公正証書遺言以外の遺言については,家庭裁判所で「検認」という作業をしてもらう必要があります。
検認は,検認日以降に遺言書が偽造,破棄されないようにするために行われる手続きです。検認日に申立人,相続人が立ち合い,遺言書の状態,具体的には,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付・署名などを確認して,これを調書に記録しておくことになります。
検認は,あくまで遺言書の状態を確認し,それ以降の偽造・変造,破棄を防ぐために行う手続であって,遺言の有効性を判断するための手続ではありません。立会った人の中で遺言者の筆跡ではないから遺言は無効であるといった話が出たとしても,遺言の有効性については,別に訴訟を提起して決着をつけるしかありません。
なお,公正証書遺言については,公証役場に原本が保管されていて,発見した人による偽造・変造,破棄の心配がないため,家庭裁判所での検認手続は不要とされています。
遺言内容の実現(遺言執行)
遺言書で遺言執行者が指定されている場合には,遺言執行者が相続人に代わって遺言内容を実現するための手続を進めていくことになります。
遺言執行者には,相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為をする権利及び義務があります(民法1012条1項)。逆に言えば,遺言執行者が就任すると,相続人は相続財産の管理処分権を失うことになります。したがって,遺言執行者がいるにもかかわらず一部の相続人が遺言の内容に反して相続財産を処分しても,管理処分権がないのでその行為は無効となります(民法1013条)。
遺言執行者は,この管理処分権に基づいて,遺産の目的物の引渡,預貯金の解約払戻し,借金の弁済,遺言執行に必要な訴訟行為などを行うことになります。
※ 遺言書で遺言執行者に指定された者は,遺言執行者に必ず就任しなければならないというものではありません。相続人などから遺言執行者になるかどうかを催告されたときに,就任を断れば遺言執行者にならずにすみます。ただし,催告された期間内に回答をしないと,就任を承諾したものとされてしまうので,必ず期間内に応じられない旨を回答する必要があります(民法1008条)。
遺言で遺言執行者が指定されていない場合には,基本的には,相続人が遺言の内容に沿って相続手続きを進めていくことになります。しかし,次のようなケースについては,遺言執行者がいないと手続を進められなくなるため,家庭裁判所に遺言執行者の選任を求めることになります。
① 遺言の内容に推定相続人の廃除,子どもの認知が含まれているとき
自分が死んだときに相続人となる者(推定相続人)が著しい非行を行った場合には,家庭裁判所の審判でその相続人の相続権を奪うことができます。これを相続人の廃除といいます。
相続人の廃除は遺言でもできるのですが,その場合には,遺言執行者が遺言執行として家庭裁判所に廃除の申請をすることとされています(民法893条)。
また,父親が非嫡出子を自分の子と認めることを認知と言い,この認知は遺言ですることもできるのですが,その場合には,遺言執行者が遺言の執行行為として市町村役場への認知届を提出しなければならないとされています(戸籍法64条)。
このため,遺言の内容に推定相続人の廃除,子どもの認知が含まれているときは,遺言執行者の選任が必要となり,遺言執行者が遺言で指定されていなければ,利害関係のある人から家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。
② 相続人が遺言執行に非協力的なとき
遺言の内容に第三者に対する遺贈が含まれているときなど,相続人が遺言執行に協力することが期待できない場合があります。
不動産の第三者への遺贈を想定してみると,相続による所有権移転登記は相続人からの単独申請でできるのですが,遺贈による所有権移転登記は,遺贈も贈与の一種であるため受遺者が単独で申請することはできず,受遺者と遺言者の相続人全員による共同申請が必要になります。しかし,第三者名義とする登記手続にわざわざ協力したくないという相続人が一人でもいれば,登記手続を完了させることができません。
この場合にも,利害関係人から遺言執行者の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。