請求できる損害項目(物損事故の場合)

交通事故の被害にあった時に加害者に請求できる損害項目について,次は物損事故の場合について説明します。

 

1)修理費用
事故で車が破損した場合,その賠償については,車を修理することができるかによって,賠償内容のとらえ方が大きく変わってきます。

= 修理が不可能な場合 =
車両の損傷の程度がひどく,修理することが不可能な場合(この状態を“(物理的)全損”と言います)には,「車両の時価額(税込み)+買替諸費用」が賠償額となります。
車両の時価相当額を求める資料としては,同年式・同型車の中古車市場における価格や“レッドブック”と呼ばれる「オートガイド自動車価格月報」という本に掲載された価格などが使われます。

= 修理が可能な場合 =
修理が可能な場合には,原則としては,適正な修理費相当額の賠償を求めることになります。自動車修理工場に修理費用の見積書を作成してもらって,これを加害者に請求するのが一般的でしょう。
“適正な”とあるのは,過剰な修理は認められないという意味です。車両の一部を損傷しただけで部分塗装ではなく全塗装が認められるのか,4本あるホイールのうち1本だけが破損したのに4本全部の交換が認められるか,などといった問題があります。部分塗装による色むらは普通は専門家でなければ見分けられないレベルなので,部分塗装の費用しか損害として認めないのが原則です。しかし,塗装方法が特殊で,補修部分と非補修部分との色調・光沢の差が生じてしまうようなケースでは,全塗装の費用が損害として認められることがあります(東京地裁平成25年3月6日判決・自保ジャーナル1899号)。
修理が可能であっても,その修理費用が「車両の時価額(税込み)+買替諸費用」を上回る場合には,いわゆる経済的全損と評価され,修理費用全額の賠償を求めることはできず,修理が不可能な場合と同様,「車両の時価額(税込み)+買替諸費用」の賠償しか認められません。

2)評価損
評価損とは,修理・事故歴があることや修理をしても自動車の外観が修復されない場合に,自動車の商品価値が下がってしまうことの損害をいいます。“格落ち”という言い方をすることもあります。
この評価損については,一定の価値の減少があり得るとしても,実際の買い替え予定がなければそれは潜在的なものにとどまるから,現実に損害が発生しているとは言えないとして,これを損害とは認めない考え方もあります。しかし,初年度登録からの期間,走行距離,車両の損傷部位,損傷の程度,車種等を総合的に判断して,被害車両の価格が事故前と比べて現実に低下しているとして,評価損を損害として認めている裁判例も少なくはありません(但し,新車登録から間もない車両,外国製の高級車などの事案が中心)。
なお,評価損が認められている事例では,修理費用の1割~3割程度の金額を損害額として認定している例が多いようです。

3)代車費用
代車費用とは、車両の修理や全損の場合の車の買い換えなどのために代車(レンタカー)を利用した場合に生じる費用です。客観的に修理に必要な相当期間,あるいは買い換えに必要な期間について認められます。使用する代車については,事故車両と同グレードのものが認められます。
なお,あくまでも代車を使用する必要があったといえる場合に認められるものなので,例えば,被害車両のほかにも車を保有している場合などには認められないこともあります。

4)休車損 -営業車の場合-
休車損とは,事故車両が営業車の場合,これを使用できなくなったことによって,その期間使用できていれば得られたであろう利益に相当する損害をいいます。タクシーのような営業車両の場合,修理期間や買換期間に代車を使って穴を埋めることができないことがあり,その場合には休車損が損害として認められます。裏を返せば,代車や会社にある遊休車で対応できてしまう場合には,休車損は損害として認められません。

5)登録諸費用 -買換の場合-
車両が全損となり買い換えを行った場合には,車両の時価(税込み)だけでなく,買い換えに必要な諸費用も損害となります。車庫証明費用(法定費用含む),検査登録手続費用(法定費用含む),納車費用,リサイクル預託金手数料,自動車重量税の未経過分(還付されるケースは除く)などがこれにあたります。
被害車両について前納していた自動車税,自賠責保険料については,未経過分について還付制度があるため,その分は損害から除かれます。

6)雑費
事故により車両が損傷した場合の処理にかかる費用も損害として請求することができます。レッカー費用,車両の保管料,時価査定料,交通事故証明の交付手数料,廃車費用などが含まれます。

7)積み荷その他の損害
事故の被害に遭った車両が荷物を積載していて,この積み荷も損傷したという場合には,損傷した積み荷の価格の賠償だけでなく,現場の処理費用,廃棄処分費用といったものも賠償しなければなりません。
車両が店舗や家屋に突っ込んだ場合には,その建物の修理費用が問題となります。建てられてから一定の年数が経過している場合,保険会社からは減価償却をすべきという主張がされることがありますが,家屋の修復により耐用年数が延長することになったとしても,それが不当利得をあげたといえるような場合を除けば,原状回復の範囲内として減価償却をする必要なしという判断を示している裁判例が比較的多いようです。

8)物損の慰謝料
交通事故によって物が壊されても慰謝料は原則的に認められません。但し,被害にあった物が被害者にとって特別の主観的価値を有する場合や,物損の被害により被害者の生活が影響を受け,例えば,平穏に暮らす利益など人格的利益が侵害されたと評価できる場合などについては,例外的に慰謝料が認められることもあります。

2017年12月17日 | カテゴリー : 交通事故 | 投稿者 : 事務局