アパートの大家さんから,「建物が古くなって危険なので取り壊すことになった。半年後の契約期間満了時に退去してもらえないだろうか」と言われました。アパートの建物はたしかに古くなっていますが,学生時代から住んでいて,場所も気に入っているので退去したくはありません。退去に応じなければならないのでしょうか?
(建物賃貸借)更新拒絶の正当事由
アパートの賃貸借契約について貸主が契約期間の満了に合わせて借主に退去を求めるには,「期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知」をしなければならないとされています(借地借家法26条1項)。
また,この通知は,「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合」でなければすることができないとされています(同法28条)。
少しわかりにくいかもしれませんが,貸主と借主のどちらが建物の使用を必要としているか,貸主と借主との間でこれまで権利金・更新料等の金銭の授受があるか,賃料はきちんと支払われてきているか,借主は建物を普通に使っているか,建物に老朽化などの問題は生じていないか,さらには貸主から借主に立退料の申出をしているか等の事情を考慮して,「正当な事由」がある場合でなければ,契約終了の通知は効力を有しないという意味です。
ご相談のケースでは“建物が古くなっている”という事情はあるようですが(建物の現況),どこまで危険な状態となっているのかはわかりません。
仮にそれほど費用をかけずに修繕をすれば住居として使用することに問題ない程度であれば,正当事由としては認められにくく,むしろ,賃貸人には賃借人の建物使用に支障が生じないよう補強工事を実施する義務があるとされることもあるでしょう(東京地裁平成22年3月17日判決)。
これに対し,耐震診断を満たしておらず,強い地震が発生すると倒壊の危険があるが,補強工事には高額の費用がかかり賃貸人がこれを負担することができないというような事情がある場合には,賃借人の建物利用の必要性の程度にもよりますが,正当事由が認められることもあるでしょう
なお,貸主からの立退料の支払いは,そのままでは正当事由が不十分なときに,これを補うものとして機能します。
どのくらいの立退料の提示があると正当事由を補完するものとなり得るかについて明確な基準があるわけではありませんが,一般的には,現在の物件と似た条件・程度の物件を確保するために必要な費用,転居費用などを考慮することになると思います。
ご相談のケースでは,建物の老朽化の程度,耐震基準との関係,修理(補強工事)の可否,それにかかる費用などがわからないと正当事由が認められるかの判断がつきません。
まず,これらについて大家さんに説明を求める必要があります。
その上で,専門家にも相談をし,もし,正当事由が認められる可能性があるとなれば,立退料の支払いを求めて交渉することも検討しなければならないでしょう。